不動産鑑定評価を行った結果、その内容がいわゆる不当な鑑定評価(不当鑑定)を行ったと判定される場合がある。当然にその内容は、不動産鑑定協会の綱紀委員会・懲戒委員会等で十分審査され、処分が下るものであるが、不当鑑定に該当した場合、定款及び懲戒規程により除名処分を含む懲戒に処せられることとなる。
近年、いわゆるバブル期後に鑑定評価を行ったゴルフ場に関して、東京地裁で不動産鑑定評価の内容が問題となった。東京地裁平成14年(ワ)第26249号事件であり、岡山県と栃木県のゴルフ場がその対象となっている。
抵当証券交付申請書のための担保の十分性を証する書面として提出された不動産鑑定評価書について、1審判決では、鑑定評価を行った不動産鑑定士に対して、損害賠償が命じられた。
その内容については、判例時報(1888号)に詳述しており、また、Evaluation(2005.No.19)に、石田茂氏が概要を記載している。
平成18年7月19日(当初は6月21日の予定であった。)の高裁判決の前に、1審判決についての疑問点を記載すべく、「住宅新法6月20日号」に次のとおり投稿した。
大和都市管財裁判の第一審判決を読んで 私は、地方都市で不動産鑑定事務所を開設している。それも、当該事件の対象地である大原町のある岡山県でバブル期以前から不動産鑑定評価を続けている。 1.バブルの影響は全国均一か 2.平成5年は収益価格重視の時期か 3.平成5年当時の岡山県のゴルフ場 4.価格時点の重要性 5.判決による正常価格は20億円か、50億円はどこからでてくるのか (不動産鑑定士 竹下 俊彦) |
(注:文章、見出し等新聞紙面と若干異なっているが、内容は同じである。)
栃木県のゴルフ場については、私自身その状況が全くわからないことから、投稿では一切触れていない。
しかし、岡山県のゴルフ場に関して、平成5年当時に収益価格を求めていないということが、損害賠償の大きな理由の一つとして上げられており、不動産鑑定士としての私の当時の認識と大きく異なることから、投稿を行ったものである。
そして、7月19日の高裁判決は、岡山県のゴルフ場については争われなかったが、岡山のゴルフ場より鑑定評価の時点が後である栃木県のゴルフ場について、1審判決による不動産鑑定士に対する損害賠償はすべて取り消された。
今後、最高裁に持ち込まれることとなるようであり、その結果がどのようになるかはわからない。
高裁判決の内容としては、収益還元法を採用していないことについて、栃木県の平成7年の不動産鑑定評価書作成時期において、収益還元法が未だ定着していなかったとしており、少なくとも不動産鑑定士としての私の認識と同じであり、その結果は良かったと思っている。
しかし、今回の高裁の判決が不動産鑑定士の損害賠償責任を棄却したことをもって、専門家責任が問われなかったとして喜んでいいのだろうか。
投稿内でも記載しているとおり、本質的には収益価格を求めているということは、裁判の争点としては大切かも知れないし、法律家の間においては看過し得ないことかも知れないが、不動産鑑定士としてはあくまで最終価格が不当かどうかが問題である。
鑑定評価額が当時の価格水準を大幅に超えているとすれば、どのような手法を採用しようと不当鑑定になるのではないだろうか。
また、当時の価格として被告の鑑定評価額が正しいとすれば、原告側の提出した鑑定評価額に問題があり、その不当性が問われなければいけないのではないだろうか。(手続きとして問題はあるが・・・)
最近改正された不動産鑑定協会の倫理規定では、不当行為の排除(第8条)、能力を超える引き受け等の禁止(第9条)、予め指定された鑑定評価の禁止(第14条)、想定に基づく主張の禁止(第16条)、無規制の仮定に基づく鑑定評価の禁止(第17条)等々、依頼を受ける場合及び鑑定評価の前提となる事項について、禁止事項を具体的に記載している。
また、依頼を受けた場合、鑑定評価基準及び留意事項の遵守(第11条)、鑑定評価の客観性と良心性(第12条)で、不動産鑑定評価の実践においては鑑定評価基準及び留意事項等を遵守することを定められている。
起こって欲しくないことであるが、過去不動産鑑定協会から不当鑑定で処分を受けたという事例がいくつか存在する。
上記の依頼を受ける場合の禁止事項及び鑑定評価の前提における禁止事項は、不動産鑑定士としての資質の問題であることから、その処分は当然のこととしても、鑑定評価基準及び留意事項の遵守で不当と認定される場合がある。
私はこの部分に関しては、あくまで鑑定評価額の結果を問題にするべきだと考えている。
少なくとも、ある手法を使っていないとか、記載事項に誤りが多いとかで判断することなく最終価格でその理由を明らかにして不当の判断を下すべきではないだろうか。
そして、その判断を下す際は、もし不当でなかったとすればいくらの価格が適正であるのかということを明らかにしなければ、「過大に評価した。」というような抽象的な文言で処分をするべきではないと考えている。
それは、価格を判断する不動産鑑定士として、またその集団として当然の責任であり、そのことにより自浄作用が生まれるのではないだろうか。
以 上