不動産鑑定評価の問題点18 土地残余法で継続地代は求まるのか

不動産鑑定評価では、継続賃料を求めることも多い。
賃貸借を行っている土地または建物について、賃料の改定を行う場合、当事者間でその額(上昇または下落)について問題が発生する場合がある。


そのような場合に、賃貸借当事者または裁判所から依頼を受けて継続賃料の鑑定評価を行う場合である。
継続賃料の鑑定評価手法として、不動産鑑定評価基準(以下、基準という。)には、差額配分法、利回り法、スライド法、賃貸事例比較法が記載されている。

平成14年10月22日の東京高裁の判決で、横浜市の繁華街の継続地代の減額の是非が争われ、減額については棄却された。しかし、その判決内容の中で、上記手法のすべてについて否定され、基準に継続賃料の評価手法として記載されていない土地残余法で継続地代は求まるとされている。
この内容は私たち不動産鑑定士にとっては、不動産鑑定評価の手法自体を否定された屈辱的な判決であるといえる。
裁判所において、不動産鑑定評価書が証拠資料として採用されない場合は、その求めた価格及び賃料自体が採用されないのであり、手法そのものが否定されることではないのが一般的である。

このような事態を受けて、日本不動産鑑定協会では、平成15年10月に不動産鑑定評価シンポジウムを開催(参加人数約500人)し、調査研究委員会で研究が継続して行われている。

私は、この判決について、継続賃料の鑑定評価における各手法がすべて否定される理由は全くないと思っている。また、逆の意味で土地残余法で求めた賃料が、継続賃料の評価手法の決定打だとも思っていない。
しかし、地上建物の収益性から継続賃料の額を求める手法は、今後検討していくべきものだとも考えている。

不動産鑑定評価においては、価格を求める手法として、原価法、収益還元法、取引事例比較法があり、求めた試算価格は、対象不動産について同一の正常価格を指向するものであるとされているが、その是非はともかく、継続賃料については、上記各手法を適用して求めた試算賃料が、すべて同一の賃料を指向しているものではないのではないだろうか。各手法はそれぞれ求める賃料の考え方が異なり、私は当然のこととして試算賃料は一致しないと考えている。

継続賃料の鑑定評価において、唯一絶対の手法はないのではないだろうか。また、今後もそのような手法が出てくることはないと考えている。
地域における賃貸借の慣行、当該賃貸借の過去の経緯等により、求める試算賃料はその手法により大きく変化するが、不動産鑑定士は、その求めた賃料の開差を説明し、どの手法によって求めた賃料が最も当該案件に適合しているかを説明するものではないだろうか。
そのためには、当然のこととして地域を詳細に調査し、賃貸借等の実態調査を行わなければならない。
そして、当該不動産の賃貸借の過去の経緯等を踏まえ、賃料の実態調査の内容を踏まえて、求めた試算賃料の性格・信頼性を説明し、試算賃料の調整及び継続賃料の鑑定評価額を求め、当事者間の賃料改定に適正な有りどころを指摘するのが、不動産鑑定士の役目である。

さて、そこで、土地残余法に基づく試算賃料は、基準の継続賃料の手法には記載されていないが、上記判決で記載されている土地残余法に基づく賃料が、継続賃料として適正なのであろうか。
ここで、土地を賃貸借(借地)してその上に建物を建て、建物の賃貸借を行っている場合を考えてみる。その場合の賃料を細分すると次図のとおりとなる。

記号を説明すると次のとおりとなる。

建物に関連する部分:a+b ・・・(建物の純収益と土地以外の必要諸経費)
土地に関連する部分:c~e ・・・(土地の実際支払地代と借地人の借得部分)
底地に帰属する収益:d ・・・・・・(底地価格の理論的根拠を示す部分)
借地権に帰属する収益:e ・・・・(借地権価格の理論的根拠を示す部分)
建物賃貸借に伴う正常実質賃料:a~e
土地の正常実質賃料:c~e
土地の実際支払賃料:c+d

土地残余法(上記の場合は、正確には借地権残余法を応用した手法である。)とは、借地権付建物の賃貸借に伴う正常実質賃料から、建物に関して関連する部分(aとb)のみを除いて、土地に帰属する収益として認定する手法であり、その結果、借地権価格を形成する借得部分等はすべて底地に帰属することとなる。
すなわち、借地権価格の存在自体が否定されているのである。

ここで、建物の賃貸借に伴う賃料について、正常実質賃料を採用しているが、実際実質賃料を採用した場合は、建物所有者である借地人の支払限度額を示すこととなる。その場合も当然に借地権価格の存在自体は否定されることとなり、基本的に新規地代と同じ意味を持つことになる。

新規賃料の鑑定評価手法としては、積算法、賃貸事例比較法、収益分析法があり、費用性・市場性・収益性の各観点から試算賃料が求められるのに比較して、継続賃料の鑑定評価手法には収益面からのアプローチが含まれていないが、このような借地権残余法の手法を応用することにより、地上建物を利用した収益から土地の地代の支払限度額を求めることが可能である。
しかし、それはあくまで借地人の支払限度額としての継続地代であり、底地である土地所有者に偏った手法である。従って、借地権残余法を応用した手法をそのまま適用して求めることは、借地権価格の存在自体を否定していることを意味しており、継続賃料の評価手法としては問題があるのではないだろうか。

地上建物の賃貸借について、正常実質賃料とするか、実際実質賃料にするか。実際実質賃料と正常実質賃料との開差がある場合どのようにするか。また、残余で求めた収益を借地権と底地にどのように適切に配分するかが今後の検討課題として残るが、これらを検討することにより、継続賃料の手法として確立していく必要があると考えている。

以 上


ⅰ土地の賃貸借について、権利金等の一時金の支払がない場合を図示しており、その場合、土地の正常実質賃料と実際支払賃料との開差部分が借地権価格を形成する要素となっているが、権利金等の一時金の支払がある場合は、権利金等に関する部分も借地権価格を構成する要素となる。

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