不動産鑑定評価の問題点17 DCF法と直接還元法(その信頼性は?)

不動産の価格を求める方法として、平成14年改正の不動産鑑定評価基準(以下、基準という。)でDCF(Discounted Cash Flow)法が導入された。また、過去から行われていた手法は、直接還元法として整理されている。

基準改正の目的の一つに「収益還元法の体系的整理」が上げられており、要説不動産鑑定評価基準の22ページに「改正の基本的観点」として、その冒頭に“複合不動産の個別性に着目し、毎期の収益の予測等からの収益還元について詳細に説明するDCF法を導入するとともに(以下略)”と記載されている。(アンダーラインは筆者による。)
そして、よく云われることであるが、「過去の収益還元法は、単純な手法である直接還元法のみで行われており、基準改正に伴い不動産鑑定評価の収益還元法がより精緻化された。」と思われている。

不動産価格を決める要因として収益が大きな要素を占めることとなった時代背景を受けて、今回の基準改正が行われたものであり、私たち業界の中でもDCF法に関する多くの研修会が行われ、またDCF法の有用性について多くの人が記載している。

しかし、収益用不動産の価格決定において、DCF法が最も精緻な方法だろうか。
過去から行われている直接還元法は、DCF法に比べてその精度がそれほど劣るのだろうか。

基準に記載しているDCF法と直接還元法は、次のとおりである。

 

 

上記式は、いずれも同じ式から出発しており、その発想は、毎期の収益の割引現在価値が不動産の理論値であるということによる。問題点13に記載した式を理論式として再度掲載する。(基準との整合性をとるために符号は変更している。)

      

上記理論式に対して、それぞれの手法は一定の条件を付けて導かれるものである。その条件とは、次のとおりである。

・DCF法は割引率一定
・直接還元法は割引率一定と毎期の収益が一定

理論式では、毎期の収益及び割引率は、期以外は期待値である。(期待値を示すを付けている。)すなわち、予測値なのである。DCF法では割引率一定という条件を付けていることから、DCF法の式の割引率は、の記号に時期を示すも期待値を示すも付さなくて良いが、少なくとも分子の毎期収益は既知の値ではなくあくまで予測するものである。その予測がどのようになされるかで、精度は大きく異なってくる。
また、将来予測には多くの不確実性が存在するものであり、求めた価格は、投資家が投資の採算性を考えるために、ある一つのシナリオに基づいたシミュレーションである。

不動産鑑定評価は、多くのデータに基づき実証的にその価格の妥当性を説明するものであり、その際に市場から得られるデータは、全て過去から現在までに至るデータである。将来時点のデータは存在しない。
収益用不動産の鑑定評価を行う場合に、把握しなければならないデータは、当然のこととして類似の不動産の取引事例であり、類似の不動産から得られる賃料収入である。法律規制、経済情勢等多くの調査を行うが、直接的にはがデータから得られる。

直接還元法で適用される分子の賃料は、理論的には将来予測される賃料を一定として求めるものであるが、現実にデータを当てはめる場合は、類似不動産から比較して対象不動産が現在得られる賃料を求めているのではないか。一般的には、データから得られるを採用しているものである。
採用した新規賃料は、多くの実証的なデータから把握されるものであり、その信頼性は高い(調査により高くすることができる。)ものである。そしてその実証データから求められた新規賃料は、市場参加者の需要と供給の一致した賃料であり、市場参加者が合理的に将来を予測した上で設定されているデータに基づく新規賃料を採用していることは、当然に将来への予測を含めた合理的に説明できる賃料となっている。

バブル期以前は、収益価格が現実の価格を説明する要素としての役目が低かったことから、収益価格に対して必ずしもデータを充実させてこなかったきらいがあるが、近年不動産鑑定士の業界で、賃料データの収集が行われる機運が高まっていることは大歓迎である。

一方、DCF法はどうだろうか。
DCF法は、パソコンの普及により将来の毎期の収入、及び諸経費等を入力してその割引現在価値の把握が容易になったことによって一般化されたものである。確かに毎期の収入及び諸経費等が精緻に求められるとした場合は、理論的な試算価格であるが、すべて予測値である。
すなわち、毎期の収入、毎期の諸経費、運用期間、運用期間満了に伴う復帰価格、これらの要素がDCF法では、現在データではなく推定された値であり、多くの不確実性を有している。合理的な予測を行うことにより、最も精緻な価格が求められるとしているが、現実は過去のデータに基づいて推定した値を積み上げたことから求めた価格である。

私は、現在多くの不動産鑑定士がDCF法により求めている価格について、精度が劣ると云いたいのではない。しかし、過去行われていた(現在も行われている)直接還元法に比較してDCF法の方がより緻密で精度が高いという論調には賛同できない。
少なくとも、多くのデータで実証的に説明できるのは直接還元法であり、採用するデータは、市場調査を行うことにより相当精緻に求められるものではないだろうか。

また、社会における将来の変化を正確に予測できるのだろうか。
DCF法では、一般的に5年以上10年程度の将来を予測しているが、本当に将来予測が可能なのだろうか。少なくとも10年前に現在の社会状況を予測できた人がいるのだろうか。
バブル前にバブル崩壊後の社会状況を予測できる人がいたのだろうか。
そのような人が多くいたとすれば、バブル自体も発生していないはずである。
市場参加者の期待を全て予測できるものがいるとすれば、それは神の領域であると云える。

不動産鑑定士は、基準に予測の原則があり、当然に現在の価格形成において将来予測を行って求めるものであるが、予測をメインにして求めるものではない。あくまで現在データで実証できる内容でもって論じなければならないのではないか。
その意味で、DCF法に比較して直接還元法の精度が劣ると云うことはないと考える。

ここでは、あえて理論式の分子である賃料についてのみ述べた。本来は分母に含まれる割引率こそが問題であり、収益価格の精度を左右するのは割引率だといっても過言ではない。
DCF法も、直接還元法も割引率の値により大きく最終価格が変化する。従って、割引率の精緻さが求めた収益価格の精緻さを左右するのである。

私は、今後割引率を具体的にどのようにして求めるかをより理論化する必要があり、割引率の理論的・実証的研究を抜きにして収益価格の信頼性は高まらないのではないかと考えている。

以 上


ⅰ各予測に幅を持たせ、収益価格をある一定の幅で求めることもできるが、現在の鑑定評価書では、一般的にその中の一つのシミュレーションのみが収益価格として記載されている。
ⅱ鑑定評価で採用する賃料は、支払賃料と敷金の運用益等を含む実質賃料から必要諸経費等を控除した純賃料であり、直接的に市場から純賃料は把握できないが、必要諸経費等を査定することは、直接還元法もDCF法も同じである。

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