不動産鑑定評価の問題点15 鑑定評価の目的と価格(タブーか?)

不動産鑑定評価は、様々な目的で行われている。
民間の個人又は法人において、不動産を売却したい場合、買受をしたい場合、担保に差し入れる場合、資産評価をする場合、その他多くの目的がある。
また、道路、公園等の公共事業において不動産を取得する場合、税務目的で評価する場合、等々その目的は様々である。

そこで鑑定評価される価格は、すべて「正常価格」に統一されている。
不動産鑑定士は、原則として「正常価格」を求めることとなっているのである。
そして「正常価格」は、多くの法律等に基づく適正価格の基準となっている。
すなわち、地価公示法に基づく公示価格、国土利用計画法に基づく基準地の価格、損失補償基準に基づく公共事業の買収価格、固定資産税及び相続税の時価等々、すべてが「正常価格」を基準として形成されていると言っても過言ではない。

しかし、すべての目的に「正常価格」のみで対応可能なのだろうか。
不動産鑑定評価基準(以下、基準という。)では、「正常価格」を次のとおり定義している。

「正常価格とは、市場性を有する不動産について、現実の社会経済情勢の下で合理的と考えられる条件を満たす市場で形成されるであろう市場価値を表示する適正な価格」
(注:アンダーラインは筆者による。)

正常価格の概念は、「市場性を有する」と記載されているように、市場性がなければ求められないが、市場性の強弱は述べていない。
「合理的な市場」の説明として、
(1)市場参加者が自由意思に基づいて市場に参加し、参入、退出が自由であること
(2)取引形態が、市場参加者が制約されたり、売り急ぎ、買い進み等を誘因したりするような特別なものではないこと
(3)対象不動産が相当の期間市場に公開されていること
と、記載しているのみで、売り手・買い手等市場参加者が十分存在することを前提としている。

通常、市場参加者が多い場合は、売り手の提示する価格と、買い手の求める価格が市場において均衡し、売買価格として顕在化する。すなわち、その目的にかかわらず正常価格が市場における均衡点として把握される可能性が高いが、不動産の場合は、市場が限定的な場合が多く、大都市の住宅地や商業地を離れると、必ずしも市場参加者は多くない。

不動産は、そのすべてが売買の対象となっているものではなく、また、売り手・買い手も少ない場合が多い。通常、
大都市から地方都市
市街化区域から市街化調整区域
標準住宅地から農家住宅地
宅地地域から農地地域・林地地域
に行けば行くほどその市場性は弱い。 極端に言えば、市街化調整区域内の農家住宅地等については、売りに出しても買い手が全く存在しない場合もあり、また、買い手がいても売却対象不動産が存在しない場合もある。
農地・林地については、その傾向はより強い。

市場性が低い不動産についても、目的に関わらず正常価格は一義的に決まるのだろうか。現場における不動産鑑定士は、その目的に関わらず、同じ正常価格を求めているのだろうか。現在の基準では、「正常価格」以外は、市場性が異なる場合の価格として「限定価格」・「特定価格」が定義されているが、その利用は極端に限定されている。
したがって、理論上不動産鑑定士は、上記「限定価格」・「特定価格」以外は、どのような目的においても「正常価格」を求めていることになる。

しかし、現実の市場ではどうだろうか。
市場性の低い農地・林地等においては、よく見られる現象であるが、売却しようとして市場に出した場合は買い手が極端に少なく、成立した価格は非常に低い場合が多い。逆に何らかの目的を持って買収しようとした場合は、その場合の売り手も極端に少なく、成立した価格は非常に高くなる場合が多い。
現実の例としては、農地法の3条取引と5条取引の価格開差は、顕著である。私たちの地域においては、倍どころの開差ではない。林地の目的による価格開差は、さらに大きい場合が多い。

現実の市場においては、農地・林地に限らず、類似した不動産が、その目的が異なることにより、価格が大幅に異なることは多いのではないだろうか。

不動産鑑定士が現実に鑑定評価を行っている「正常価格」は、本当に目的に偏らず同じなのだろうか。
私は、不動産鑑定士は、不動産鑑定評価に関する法律に記載するとおり、“適正な価格の形成に資すること”を使命とし、基準が示すとおり“この社会における一連の価格秩序の中で、その不動産の価格がどのような所に位するかを指摘すること”を使命としていることは大前提とし、それでも、目的によっては適正価格が変化するのではないかと考えている。
不動産の価格は、連続的に変化するのではなく、目的によって不連続に変化するものであると考えている。

誤解を受けてはいけないが、このことは、恣意的に価格をつけることとは全く異なる。
不動産市場は当然のことながら、経済学でいう完全市場でもないし、ファイナンス市場でいう効率的市場でもない。
市場参加者が少ない不動産が多く、その目的によって価格が変わる場合が多いのが現実である。

「正常価格」のみで、対応することに無理はないか。不動産鑑定士は胸を張って「すべての目的において正常価格で対応できる。」と、実務を通じて言えるのだろうか。

不良債権処理が急務となった時代背景を受けて、基準において現在、民事再生法による早期売却価格等、正常価格より極端に低い価格をつけることを「特定価格」として認めている。しかし、法令等による社会的要請を背景とする評価目的に限定して認めているのであり、法令等の裏付けがない限り「特定価格」を鑑定評価することはできない。

ここで、考えてみたい。本当に不良債権処理を目的とした不動産の価格は、「特定価格」として「正常価格」の範疇からはずしたことのみで足りるのか。
本当は、不良債権処理を目的とした適正価格として、その目的に対応した「正常価格」なのではないだろうか。

現在、民間企業が社宅等不要不動産の売却を急いでいる社会的背景があるが、その場合の鑑定評価においては、基準上当然のこととして特定価格は当てはまらない。しかし、正常価格で売却することは困難な場合が多い。
また、公共事業において、道路・公園等の買収を行う場合、逆に正常価格で買収できることが困難な場合は相変わらず多い。

これらは、不動産市場の特殊性の故に発生することであり、現実の市場の状況に対応した「目的」に応じた「適正価格」として「正常価格」を位置づける必要が来ているのではないのだろうか。

今まで、不動産鑑定士は金科玉条のごとく「正常価格」を信奉し、同じ不動産であれば、すべての目的に対応して鑑定評価額の結果は同じであるという前提に立っており、このような議論をすることは、意図的に価格を操作する可能性があるということでタブーとなっている。

しかし、本当にそれでいいのだろうか。
不動産鑑定士が、鑑定評価する価格は、現実の社会的な価格秩序の中で求める必要があることを大前提としつつも、これまでの「正常価格」のみで足りるとする無理があるのではないだろうか。

再度述べるが、恣意的な価格を付けるためにこの問題に触れたのではない。

以 上


ⅰ 不動産鑑定評価基準には、市場性を有する不動産について「限定価格」「特定価格」を求めることがある。
限定価格は、隣地買収のように売買当事者が限定されている場合であり、正常価格より高くなる場合が多い。
特定価格は、民事再生法、会社更生法等々法令等による場合であり、早期売却を前提とする等正常価格より安くなる場合を容認している。
ⅱ 3条取引とは、農地を農地として利用することを前提とした取引であり、5条取引とは農地を農地以外の利用をすることを前提とした取引である。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


*

次のHTML タグと属性が使えます: <a href="" title=""> <abbr title=""> <acronym title=""> <b> <blockquote cite=""> <cite> <code> <del datetime=""> <em> <i> <q cite=""> <strike> <strong>