不動産鑑定評価の問題点14 不動産鑑定士の専門性

不動産鑑定士は、不動産の鑑定評価に関する法律(昭和38年法律第152号)第36条で、“不動産鑑定士でない者は、不動産鑑定業者の業務に関し、不動産の鑑定評価を行ってはならない。”と規定されており、不動産鑑定評価を行う独占的地位を与えられている。

国家試験に基づく資格として、弁護士、公認会計士、税理士、司法書士等々多くの資格があるが、それぞれの資格は、法律、監査、税務、登記実務等で、法律によりその専門性の故に業務に関して独占的な地位を与えられている。

では、不動産鑑定士としての専門性は一体何なのだろうか。
不動産の鑑定評価とは、鑑定法第2条に記載のとおり、“不動産の経済価値を判定し、その結果を価額に表示すること”と規定されている。
不動産の経済価値を判定し、貨幣額として表示する。すなわち、ある不動産について、最終的に金額いくらと表示することをもって不動産の鑑定評価を行ったことになるのである。
では、不動産鑑定士は経済価値を判定するその対象となる不動産の専門家なのだろうか。

不動産を業としている人々は多い。
一般的に市場参加者の最前線に居るのは不動産業者であるが、不動産業は、大手から中小の不動産会社、個人の宅地建物取引主任者まで千差万別である。また、その業務内容についても、大がかりな街づくりもあれば、小規模な仲介もあり、その範囲は極端に広い。
さらに、大手ゼネコンから、建築業、建設業等も不動産を対象として業を行っており、どのような職業も、どのような人間も職業基盤及び生活基盤として不動産に大なり小なり関わっているといえる。

不動産鑑定士は、不動産業と兼務している場合もあるが、兼務していない不動産鑑定士が大半であり、通常不動産業の専門家ではない。また、大手不動産会社、ゼネコン等もその内部に不動産鑑定の部門がない場合が多く、不動産鑑定士の業界とは別の場合が大半である。
すなわち、不動産鑑定士は、このような不動産を対象としている業界とは、独立して不動産の鑑定評価を専門とする業界なのである。

ここで、不動産の構成要素を考えてみよう。
不動産とは、一般的に土地と建物である。
不動産鑑定士は、不動産の構成要素である土地と建物の専門家なのだろうか。
土地とは、「土」であり、人為の加工を施した「地」であるが、土地を知るためには、当然に土地が成立した地質学的な歴史を知らなければならないし、さらに、土木工学、力学等の工学的知識が必要である。現実に盛土等を伴う場合の造成費、水路が介在している場合の橋梁の築造費等コストの知識は不可欠である。
また、近年の土壌汚染等環境に伴う多くの実践と知識、及びそれに伴う法律群の知識を必要とする。
一方、建物とは建造物・建築物のことであり、当然のこととして多種多様の建造物が、その工法と共に日々変化し、その内部の設備についても日進月歩である。
不動産の鑑定評価を行うためには、その素材、建築工法、建築費、修繕費等の知識が必要であり、建築に伴う多くの規制に対する知識が必要である。

不動産鑑定士は、土地と建物の基礎的な内容及びコストの基本的な内容については把握しているが、それぞれの内容について専門家ではない場合が大半ではないだろうか。
不動産鑑定士の中には、不動産業と兼務している者、他の資格を取得して実務に生かしている者、学者となっている者、近年台頭してきた金融工学を専門としている者等々多くの専門家も存在している。
しかし、それらの人も、土地と建物のすべての内容について専門家であることは不可能である。

私は、不動産鑑定士の専門性とは、不動産の構成要素としての、土地及び建物の基礎的な内容を熟知していることは前提として、不動産の市場参加者が現実にどのような取引及び賃貸借を行っているかを調査し、その結果から市場参加者がどのような期待及び行動を行っているかを分析する専門家であると考えている。
不動産の構成要素である土地の専門家、建物の専門家がいたとしても、それぞれの専門家であるということで、現実の土地と建物が複合した市場における不動産の価値を把握できるものではない。

不動産鑑定士は、不動産市場の調査・分析を経て初めて不動産の現実の市場における公正な価値を把握でき、貨幣額に置き換えることができるのである。
従って、不動産鑑定士が、不動産市場で発生している事象について、調査・分析すること行わなければ、その専門性は無いに等しい。
また、不動産市場で発生している事象は、時々刻々変化していることから、常に現場で調査・分析する不動産鑑定士でない限り、不動産鑑定評価の実務は困難ではないかと考えている。

平成14年に不動産鑑定評価基準が改正され、その中で土壌汚染、埋蔵文化財が明記され、建物についてもアスベスト等有害物質が建物の価格に大きな影響を与えている。さらに、最近話題となっている建物の耐震性の問題も、本質的に建物の市場価値に大きな影響を与えるものである。

しかし、多くの不動産鑑定士はこのような部門の専門家ではない。
また、すべての不動産に関する問題についてオールマイティーな人間自体が存在しないのではないだろうか。
その中で、不動産鑑定士は最終的な市場価格を表示しなければならないのである。
そしてその責任はきわめて重い。
不動産鑑定士は、不動産の構成要素である土地と建物についてさえも、完全なる専門家ではないことを認識し、土地の専門家、建物の専門家、その他多くの専門家と提携して不動産鑑定の業務を行う必要があると考えている。

以 上


ⅰ 不動産鑑定評価の対象としては、土地と建物の所有権以外の権利も対象としている。

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