不動産鑑定評価の問題点13 r-gの常識?

1. 直接還元法について

不動産鑑定評価では、近年収益還元法の重要性がますます増大している。
これは、すべての地域・すべての不動産で収益性を重視して価格決定されていることではないが、東京・大阪等の都市圏にかかわらず、地方圏においても収益性で不動産の価値が形成している案件が増大していることにある。

不動産鑑定評価の手法に収益還元法があり、その中の直接還元法と呼ばれるものは、不動産から得られる純収益(主として賃貸収入から経費等を控除したネットの収益)を、ある利回り(還元利回り)で還元して不動産の価格を試算するというものである。

直接還元法は、式で示すと次のとおりである。
                                  (1)
:不動産価格
:毎期一定の純収益
:還元利回り
ここで、不動産の基本利回りとして把握される割引率をとすると、不動産鑑定評価の手法では、割引率と還元利回りの関係を次の式で把握することが多い。

                                       (2)

不動産鑑定評価基準では、還元利回りを「割引率との関係から求める方法」として、「純収益が永続的に得られる場合で、かつ純収益が一定の趨勢を有すると想定される場合に有効である。」として、を純収益の変動率としている。
そしてこの方法は、地価公示等の公的評価において収益価格の試算に適用されている。
ある意味では、還元利回りは土地の基本利率から純収益の変動率を引くこと、さらにそのがプラス(純収益が上昇している。)であることが不動産鑑定士の常識となっている。

しかし、本当にそれでいいのだろうか。
本稿ではその内容を考えてみたい。

2. 直接還元法の前提

なぜ不動産の収益価格が(1)式で示され、還元利回りが(2)式で示されるのだろうか。

【前提1】不動産の価格は賃料を基に求められるという大前提から出発している。
不動産、株式等の資産の価格は、その資産から得られる収益を元に形成されているということが、理論的なファンダメンタルな価格である。
式で示すと次のとおりである。
                   (3)
期の不動産価格
期の純収益
期の割引率

ここで、純収益と割引率の右上に付いているeは、期待値を示している。
本来将来の純収益は既知ではないことから、期待値で示すことが理論的であるが、このままでは適用が困難であることから、期待に前提を置くこととなる。

【前提2】割引率が一定、純収益が毎期だけ均等に変動するという強い前提をおいている。
すなわち、(3)式で次期の期待値であるが、毎期だけ一定率で変化し、さらに、割引率がで長期にわたって変化しないことを前提としているのである。
本来は、予想される純収益、予想される割引率であり、期待値であることから、どのような期待を行うかが重要なことであるが、それについて上記のような強い前提を置いた場合である。
この場合、
                 (4)
となり、両辺にをかけることにより

                           (5)

ここから、不動産価格は純収益を(割引率-純収益変動率)で割ることで求められるという不動産鑑定評価上の直接還元法の式が出、の符号をプラスで適用しているのが一般的である。すなわち、還元利回りが割引率より低くなるという結果となっている。

還元利回りと割引率の関係は、割引率が一定、賃料が毎期一定率で変化(プラスで見ていることから上昇を指している。)しているという前提がなければ成立しない関係式であることは明らかであるが、これらの前提は理にかなっているのだろうか。4で示す図を参照していただきたい。

3. 現在価値モデルとの関係

(3)式は、不動産価格のファンダメンタルな関係式であるが、ここから現在価値関係に基づくモデルが導かれる。
今、1期先の価格の期待値をとすると、
                  (6)
となり、(6)式を(3)式に代入することにより
                            (7)
となり、価格はその期に得られる純収益と1期後の期待される価格を、(1+割引率)で割った価格として把握される。
この関係を一般的に現在価値関係といい、(7)式で示す資産の価格を表すモデルを現在価値モデル(PVM)という。
は期待値であるが、前述と同じく実現値のに置き換えて考えることとする。
ここで、(7)式から割引率を求めると
                             (8)
となり、割引率は純収益に対する価格の割合と、価格変動率を加算したものと等しいことがわかる。
次に、と定義して(8)式に代入することにより
                                 (9)
が得られる。この式は(5)式と同じであり、純収益の継続的な上昇率は、現在価値関係から見ると1期間の価格変動率と同義であることがわかる。

4. 価格と純収益の動向

今までの展開で、は純収益の変動率を示すと同時に価格変動率を示し、必ずしも純収益の変動率のみで定義されるものではないことが明らかである。
では、現実の価格と純収益の変動はどうなのだろうか。

【純収益について】
不動産を賃貸することによって求められる純収益については、長期的な系列が存在しないことから、明確に把握することは困難であるが、不動産の賃料についても価格の低落傾向よりは遙かに少ないが、バブル崩壊後は若干の下落傾向で推移している。

【価格について】
周知のごとく不動産価格は、近年都心部で値上がり傾向が認められるものの、バブル崩壊後の10年以上にわたって長期低落傾向であり、明らかにキャピタルロスが生じている状況である。

純収益と価格さらに割引率に影響を与える長期国債の変動状況を示すと、下図のとおりである。ⅰ

上記の図の賃料は、大阪市の中心商業地の事務所賃料(総面積500坪以上の新築事務所の賃料)について、ヘドニック分析により独自に求めたものであり、基準地地価は大阪市の商業地の平均変動率を採用している。ⅱ

上記に示す価格と賃料は、いずれもバブル期を経て長期低落傾向であり、特に2004年の価格はピーク時である1990年に比較して約10%の水準となっている。
また、賃料は大きな変化は認められないものの、価格に比較してやや遅れてそのピークを迎え、その後緩やかな下落傾向をたどっていることがわかる。最も高かった1992年に比較して2004年は約53%の水準となっている。

5. おわりに

以上のとおり、を定義している賃料については、少なくとも10年以上マイナスの値を示しており、また別の角度から定義される価格の上昇率についても、賃料を大きく上回るマイナスの値を示している。
したがって、現在不動産鑑定評価で行っている直接還元法の還元利回りで、をプラスとして適用していることについては、バブル崩壊後の長期低落傾向にある期間では大きな矛盾があるのではないだろうか。
がマイナスを示すことは、限りなく逓減傾向にあることを意味していることから、長期的にはプラスであるとする考え方もあるが、では長期とはどの程度の期間を考えればよいのか。短期的にを把握するべきではないことは明白であるが、上記のように10年以上にわたってがマイナスを示す場合に、プラスの値を採用する違和感はないのだろうか。
還元利回りとは、(1)式に示すとおり、端的には純収益と価格の比率である。がマイナスを示している時期に、ことさら割引率からを引くという形式で還元利回りを考える必要性はないのではないかと考えている。

以 上


ⅰ 割引率に影響を与えると思われる安全資産としての長期国債の利回りも低下傾向にあり、が一定との前提も疑問である。
ⅱ 北区、中央区、西区、淀川区の1985年から2004年までに建築された事務所ビルの賃料を対象としており、推定結果の信頼性を示す決定係数は0.71である。

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