不動産鑑定評価の問題点10 積算法は矛盾しているのか?

不動産鑑定評価基準の新規賃料を求める手法の一つに「積算法」がある。
これは、“対象不動産について、価格時点における基礎価格を求め、これに期待利回りを乗じて得た額に必要諸経費等を加算して対象不動産の試算賃料を求める手法”と定義されており、
必要諸経費はその性格上除外して単純化すると、

新規賃料=基礎価格×期待利回り                    (1)

と表されるものである。
(1)式は、左辺に新規賃料があり、その説明変数として基礎価格(不動産の価格)があることから、新規賃料を求める要素として価格があることになる。すなわち、価格が賃料に影響を及ぼしているのである。

このことについて、経済学者は全く逆の考え方をしており、賃料が価格を決定しているとするのが一般的である。

不動産価格=賃料÷期待利回り                     (2)

(2)式は、価格を説明する要素として賃料があり、(1)式とは因果関係が全く逆である。

私たち不動産鑑定士は、(1)式に基づき新規賃料を試算しており、積算賃料と定義しているが、この方式は、継続賃料の試算過程においても、新規賃料と現行賃料との差額を求めるために新規賃料の試算が必要となることから、一般的に利用されている関係式である。
因果関係が理論的に成立しない手法でもって求めた賃料には、全くもって説明力が無いと考えるが、本当に(1)式は因果関係が逆なのだろうか。

もし、(2)式が正しいとすれば、不動産の価格は得られる賃料がわかれば求められることになり、すなわち収益価格で不動産の価格が決定されていることになる。
バブル崩壊後急激に下落した現在の不動産価格は、収益性を重視して決定されているのは事実であり、賃料がいくら得られるかということは、価格を考える上で重要な要素となっているが、そのことと(2)式が正しいということとは全く異なる。

現実に市場で成立している価格は、過去に成立した規範性の高い取引事例の価格の影響を受けて決まっているのではないか。すなわち、価格が何らかの理由で上昇すると、更に上昇するという期待により、不動産に投資する市場参加者が増えることからますます価格が上昇し、逆に価格が下落すると思えば市場参加者が減少し、更に価格が下落するという構図を取っているのではないだろうか。
もし、(2)式が正しいとすれば、不動産の価格と賃料は同じような変動を辿るはずである。
若干のラグをもつとしても、賃料の上昇または下降の後に価格の上昇または下降が始まるはずである。
現実はどうだろうか。
不動産の価格に対する指数は多くある。代表的なものとしては地価公示価格、地価調査価格であり、また(財)不動産研究所の市街地価格指数である。しかし、賃料に対する長期低な指数はほとんど存在しないことから、公的に発表されている指数から価格と賃料の関係を直接的に把握できない。

従って、不動産の価格と賃料の関連性を把握するに当たり、価格と賃料が同時に把握できる資産運用物件について、ヘドニック分析を行って求めた結果は以下のとおりである。(詳細は日本不動産学会誌、第17巻1号参照)R²と書いているのは信頼性を示す決定係数である。
1986年第4四半期から2002年第1四半期までの、主として投資用マンションの価格と賃料を求めたものであるが、価格は1990年第3四半期をピークとしてその後急激に下落している。一方、賃料に関しては1993年第3期まで緩やかに上昇し、その後若干下落傾向にあるが、推定期間を通じて変動の割合は価格に比較して極端に少ない状況がわかる。

上記推移から、賃料が価格の変動を誘発してはいないし、価格が賃料の変動を誘発している可能性が高い。また、賃料の概ね安定的な推移からは価格の変動状況を直接的には説明できない。
すなわち、賃料が価格を決定するとすればバブル現象は発生しなかったはずである。

不動産価格は、賃料から求められるものよりむしろ成立した取引価格が価格に対する全ての情報を伝達し、価格を決定していたのでないだろうか。
理論的には賃料が価格を決定するのかも知れないが、不動産というものが価格として取引の対象となった時期から、価格は価格として独自に決定されていっているのであり、賃料との関係はかなり希薄になっている。

一方、市場参加者は資産に対して一定の報酬を求めている。
土地を取得し建物を建築して賃貸事業を行う場合、その取得価格が上昇した場合は、その報酬としての賃料が上昇し、逆に下落した場合賃料が下がっていくことになる。
その結果が、価格に遅れて賃料が変動するという結果になるのではないだろうか。

すなわち、市場は(1)式に基づき動いているのであり、現実の社会は積算法を認知していることになる。
私たち鑑定士は実務家であり、現実の市場の実態に適応した手法を適用することに何ら問題はないと考えている。

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