不動産鑑定評価の問題点09 比準価格が最も重要な試算価格

近年収益価格の重要性がよく述べられる。
「バブル崩壊後、長引く地価下落により収益性が重視されるようになり、不動産の価格は、収益価格で決まってきている。」と、云われている。
不動産鑑定評価の手法には、取引事例から比較して求めた比準価格、収益性から求めた収益価格、費用性から求めた積算価格の3つの試算価格がある。

平成2年に改正された不動産鑑定評価基準の、第7節 試算価格又は試算賃料の調整で、“鑑定評価方式の適切な適用によって求められた試算価格又は試算賃料はそれぞれ等しく妥当性があるものとして尊重し、活用すべきものとし・・・・”(アンダーラインは筆者)と記載されている。

しかし、平成14年改正の不動産鑑定評価基準(以下、基準という。)では、第7節 試算価格又は試算賃料の調整で、“試算価格又は試算賃料の調整とは、鑑定評価の手順の各段階について複数の手法により求められた各試算価格又は試算賃料の再吟味及び各試算価格又は試算賃料が有する説得力に係る判断を行い、鑑定評価額の決定に導く作業をいう。”と記載されており、試算価格が等しく妥当性があるという記述が変更されている。

このことは、今回の基準改正の目的となった4番目の大項目であり、「試算価格の調整の意義等の明確化」として、要説不動産鑑定評価基準(2003)24ページに次のとおり記載されている。 (ⅰ)

(改正の要旨)
従来の基準では、試算価格又は試算賃料の調整の意義や調整の手順に係る具体的な留意点が必ずしも明確でないことから、鑑定評価の三方式はそれぞれ独立して関連性がない、或いは各試算価格又は試算賃料は常に等しくウェイト付けが行われるべきとの印象を与えている。このため、試算価格又は試算賃料の調整の意義及び留意点について明確化する。

このことにより、上記のとおり基準が改正されているのであるが、価格には一般的に費用性・市場性・収益性の三面性があると云われており、それらに対応して不動産の価格も求める方式が存在し、各方式に基づく評価手法があり、各手法により求めた試算価格がある。
そして、それぞれは次のとおり独立に価格が形成されると思われがちであった。

しかし、今回の基準改正では、各手法が独立しているものではなく(上記方式と手法が一本の矢印で示されるのではなく)各手法の中にそれぞれの方式の考え方が相互に関連していることから、次のとおりになるものと考えられている。

試算価格の調整に当たっては、どの試算価格が最も重要で信頼性が高いかを、各試算価格の再吟味と各試算価格が有する説得力に係る判断を行う必要があるというものであり、各試算価格が等しく妥当性があるという考え方は取っていないのが今回の基準改正である。

この変更は、バブル崩壊後の長引く価格低迷により収益性が重視されてきたとの大合唱のなかで、将来発生するキャッシュフローとしての収益(賃料収入)を基に現在価格が形成されるとする経済学の考え方と付合し、収益価格で不動産の価格は決まっている(決まるべきである)ということを助長しているように思える。

しかし、本当にそうだろうか。
まず、上記概念の中で、価格は費用性、市場性、収益性の三面性を持っているのだろうか。
現実に成立している不動産の取引価格は、情報の非対称性があるとしても、需要と供給が合致する所で市場で決定されているものである。
不動産鑑定士が求める価格は、市場において成立するであろう価格を求めるものであり(ⅱ) 、現実の市場で成立した価格を調査して求める比準価格は、費用性・収益性の上位にランクされるものである。

戦後持続的に上昇した不動産価格の鑑定評価の現場において、バブル期までは収益価格は殆ど役に立たなかった。収益還元法は先走りがちな取引価格に対する有力な験証手段になる (ⅲ) と云われても、実際の市場価格を説明できないことから、現実の不動産鑑定評価においては収益価格が重要視されることはなかった。土地価格は上昇するのが当たり前と認識されていた土地神話が成立していた時代においては、キャピタルゲインを目的として自己実現的に不動産価格が形成されていったのであり、収益性を重視した価格形成がなされていなかったのである。当時は積算価格が比準価格を最もよく説明していた。(供給価格としての性格を持つ積算価格が市場をリードしていたのである。)

現在三大都市圏で不動産価格が一部上昇傾向にあるが、バブル崩壊後不動産価格は急激に下落し、現在に至るまで全国的には下落傾向を辿っている。このような中で土地神話が崩壊し、不動産について、キャピタルゲインを求めるより価格低下により相対的に高い利回りを示してきた不動産の利用を目的として不動産価格が形成されるようになってきたものであり、収益価格の信頼性が高くなったのである。
そして現在、収益価格が比準価格を最もよく説明している。

時代により積算価格がその時代の不動産価格の重要な指標となったり、収益価格がその時代の不動産価格の重要な指標となっているのであり、現在は収益価格が市場をリードしているに過ぎない。

いつの時代も不動産価格を最もよく把握できるのは、当然のことであるが市場で成立した取引事例であり、その取引事例から求めた比準価格こそが不動産鑑定評価で最も信頼性の高い試算価格である。
比準価格の重要性はいくら述べても足りない。収益価格の時代だと声高にいう論調に、不動産鑑定士としてもっと反論していいのではないだろうか。
収益性を反映して現在の取引がなされているとすれば、取引事例がそれを十分証明しているはずだと・・・。

一方、不動産鑑定士は、本当の意味で比準価格の精度を上げなければならないと考えている。現在の不動産鑑定士の行っている比準方法は、あくまで土地主体である。土地価格比準表(住宅新報社)の率をそのまま採用している不動産鑑定士はほとんどいないと思われるが、不動産鑑定士が比準方法について、公式に議論をしたことを私は知らない。比準方法についてはブラックボックスのように各個人の経験と裁量に委ねられているのが現状である。
今更という気がしないでもないが、最も重要な部分であることから、いつまでもブラックボックスでは済まないと危惧するのは私だけだろうか。

土地価格が持続的に上昇していた時期は、建物は土地の付属物であり、土地の価格に建物を加算する方法でもよかったが、現在のように下落期で特に更地に対する有効需要が極端に落ちている場合は、土地と建物が一体となっている不動産の取引についても、比準方法が確定していなければならないと思う。
私たちは、過去から多くの取引事例を掌握している。その中には土地建物一体の取引事例も多いことから、分析しようと思えば今からでもできることである。

また、現在国土交通省が不動産取引価格情報の提供制度の創設を行おうとしている。私たち不動産鑑定士は、現在取引事例とどのように向かい合うのかが問われている。不動産鑑定士が事例収集士になってしまうのではないかとの意見もあるが、私は積極的に関わるべきだと考えている。
過去から、不動産鑑定士のみ取引事例を聴取して現地調査し、取引事例をデータ化しているのである。現地調査の段階で不動産取引の単なる価格のみではない多くの情報を入手し、価格水準を感覚的にでも把握できるようになっているのは、事例調査を行っているからである。
事例調査の実務を行っていない不動産鑑定士には、不動産の価格のことはわからないとさえいっても云いすぎではない。

比準価格の試算はそのような事例調査がバックボーンにあって、初めて可能となるものである。不動産鑑定評価書に添付するわずか3~5個程度の取引事例で価格を把握しているのではない。取引事例は過去からの流列があり現在がある。時系列的にも横断的にも多くの取引事例を把握し、価格が定まってくるものと考えている。

比準価格が軽視されている傾向がある(実務を行っている不動産鑑定士はそのようなことはないと思うが)ことから、ここでは比準価格の重要性を再認識の意味で記載したが、当然のこととして収益価格の重要性を無視しているのではない。
現在収益価格が現実の価格を最もよく説明しているのであるならば、収益性が最も重要な価格形成要因である。不動産鑑定士として収益性の分析は最も重要な項目として位置付ける必要があり、時系列的また横断的に収益性の分析をもっと行う必要があるとも考えている。

以上


ⅰ 平成14年の基準改正では、次の6項目が改正のポイントとなっている。
1.価格概念の明確化
2.収益還元法の体系的整理
3.市場分析の重視
4.試算価格の調整の意義等の明確化
5.物件調査の拡充
6.鑑定評価報告書の記載事項の充実

ⅱ 但し、現実の社会経済情勢の下で合理的だと考えられる市場という市場である。

ⅲ 昭和40年代の列島改造ブームの後、昭和49年に土地鑑定委員会から当時の国土庁に提出された「国土利用計画法の施行に際し不動産の鑑定評価上とくに留意すべき事項について(建議)」でも収益価格の重要性が指摘されている。

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