不動産鑑定評価の問題点08 増分価値の配分方法(限定価格)

土地の所有者が隣接地を購入する場合、通常の相場より高い価格で売買が成立することが多く、このことを不動産鑑定評価上「限定価格」と定義している。 ⅰ
次のような画地があったとしよう。

・Aの土地は、角地であるが規模が小さい土地である。
・Bの土地は、2方路であるが不整形な土地である。

この両画地を一体として利用し、一体後の画地(C)が角地として有効活用ができる場合、一体化することにより両画地を単独で利用する場合に比較して増分価値が発生する。

いま、A・Bを単独利用した場合と一体利用した場合の価格を下記のとおりとする。

区分
土地価格
Aの単独利用の画地
200万円
Bの単独利用の画地
1500万円
Cの一体利用の画地
2000万円

上記のとおり例示した場合は、A・B単独利用の土地価格の合計(1700万円)より一体利用したCの土地価格が高く、一体利用することにより、300万円の増分価値が発生する。
限定価格とは、この増分価値をどのように各所有者に配分することが合理的であるかを鑑定評価することである。

しかし、その配分方法には多くの手法があり、統一的には行われていない。
要説不動産鑑定評価基準(2003)では、97ページに具体的に例を記載しているが、その内容は配分方法に踏み込んだものではなく、上記の増分価値300万円を全て上乗せして売買が成立する場合があることを記載しているに過ぎない。
すなわち、Bの土地所有者がAの土地を購入する場合の価格は、元々の200万円に増分価値の300万円を加算した500万円まで出しても上限価格として採算が取れると云うことを記載しているのみである。

また、不動産鑑定実務論(2000)では、次のとおり多くの配分方法が列記されている。

1.増分価値の折半法
2.面積比による方法
3.単価比による方法
4.総額比による方法
5.単価上昇率比による方法
6.単価上昇寄与率比による方法
7.買入限度額比による方法
8.増分価値の全配分
9.単価比と面積比の合計の1/2比による方法
10.併合後の総額の面積比による方法

そして、実際の不動産鑑定評価においては、4の総額比、7の買入限度額比(以下限度額比という。)が一般的に採用されていると記載されている。また、国土利用計画法による不動産取引に価格審査が行われていた時期、当時の国土庁が、限定価格についての配分方法は限度額比で行うことを質疑応答集で記載している。

増分価値の配分方法として一般的に云われていることは、面積及び総額を加工した2、4、7の手法は不動産の量を重視した配分方法であり、単価を加工した3、5、9の手法は不動産の質を重視した配分方法であると云われている。
なぜこのように多くの配分方法があるのだろうか。

それは、限定価格の鑑定評価を行う場合、それぞれの画地が様々であることによる。
そして、その全てに該当する手法が確立していないことによる。
言い替えれば実際の鑑定評価を行う場合、総額比や限度額比のみでは増分価値の配分額が少額になり過ぎることがあり、極端な場合限定価格としての構成要素を欠く場合すらあるからである。
限定価格として鑑定評価を行う場合を分類すると、次のとおりである。

1.A・Bそれぞれに一体利用に伴う利益が発生する場合

この場合は、両画地が概ね均等に利益を受ける場合と、一方が大きく利益を受ける場合とに別れる。
①両者が概ね均等に利益を受ける場合

②一方(B)が大きく利益を受ける場合

2.一方のみ(A)が利益を受ける場合

総額比及び限度額比が適用できる場合は、一般的には両者が概ね同等に利益を受ける場合(1-①)である。その場合は折半法(増分価値を折半する。)とあまり変わりがない結果となる。
この配分方法は、A・B両土地の所有者の一体化を望む程度(動機)が同等であることを前提としての配分方法である。
つまり、今甲と乙という人が共謀してA・Bそれぞれの土地を単独利用を前提として取得し、直ちに一体化してその利益を出資額に応じて配分することと同じではないか。

しかし、通常限定価格として鑑定評価の対象となる場合は、一方が大きく利益を受ける場合(1-②)が多い。そして又大きな画地が小さな画地を買い取る場合が多い。
上記の例では、BがAを買い取る場合である。
このような場合には、総額比又は限度額比による配分方法では、Aに配分される増分価値がAの面積又は総額が少ないため極端に少なくなり、限定価格が成立しないことさえある。すなわちAの単独利用の正常価格に比較して、増分価値を配分した後の限定価格と正常価格との開差が少なく「市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される」という定義に当てはまらないことになってしまう。

1-②に該当する最初の設例で、規模の大きな土地を有するAがBを取得する場合を想定する。(標準価格、要因、単価、面積等を例示する。)

【設例】

付号 面積
(㎡)
個別性 格差率
(%)
格差修正率
(%)
単価
(円/㎡)
正常価格
(円)
増分価値
(円)
20
角地
規模小
+5
-30
75
75,000
1,500,000
2,550,000
150
2方路
形状
+2
-10
92
92,000
13,800,000
170
角地
+5
105
105,000
17,850,000
-

(注)格差修正率は単純化のため足し算で求めている。

【限定価格の結果】

区分
画地A
総額比 増分価値の配分率
9.8%
限定価格
175万円
正常価格に対する増価割合
17%
限度額比 増分価値の配分率
19.9%
限定価格
200.7万円
正常価格に対する増価割合
34%
折半法 増分価値の配分率
50.0%
限定価格
277.5万円
正常価格に対する増価割合
85%

上記の場合、総額比だと増分価値の9.8%がAに配分されるのみで、限定価格は正常価格の17%増でしかあり得ない。限度額比だと若干改善されるもののそれでも正常価格に対して34%増価されるに過ぎない。
Aの画地は、正常価格に対しては増価があるが、限定価格を単価に直した場合、87,500円であり、標準価格よりまだ13%も低い結果となっている。

総額比による17%の増価は限定価格を構成するのだろうか。
標準価格の100,000円/㎡より低いこの程度の増額で、市場価格から乖離し当事者間双方のみに市場が限定されるものだろうか。一般的に不動産は、その地理的位置を変更しないが、人が介入することにより分割・併合等を行う可能性(これを不動産の人文的特性という。)があり、隣地等と一体となる可能性を潜在的に有しているものである。
Aの土地については、Bと一体となる潜在的な価値を有しており、それが顕在化することにより255万円の増価が発生することが明らかである場合、その可能性を求めて第3者がやや高値で購入することが想定され、あまりに低い増分価値の配分では、当事者間にのみ成立する価格であるとはいえない。
限度額比程度の配分でもそれは程度の差であり、この例の場合は標準価格並みとなり、限定価格を構成するか否かは総額比の場合と同じである。

再度繰り返すが、総額比・限度額比は、A・B両土地の所有者の一体化を望む程度(動機)が同等であることを前提としての配分方法である。
すなわち、不動産の人文的特性に伴い、もともとその不動産が有している一体利用する可能性の潜在価値で配分したに過ぎない。
一体利用が現実に行われ、潜在的な価値が顕在化した場合の配分方法として適切であるとは思えない。

では、どのようにして配分したらいいのだろうか。

上記10種類ある配分方法ではできないのだろうか。
不動産鑑定士は、実際に限定価格として鑑定評価する場合、まず、上記のように総額比または限度額比を適用し、1-②、2のような場合、その配分額が極端に少なくなり、現実に行われている隣地買収の事例との説明が困難であり、もっと配分額が多くなるように単価比等の不動産の質を採用して配分額を多くしているのではないだろうか。そのため、このように多くの配分方法があるという結果になっていると考える。

私は、もっと単純な配分方法を適用すればいいのではないかと思っている。
以下、その配分方法を記載する。名前は「利益交換法」とでもいうものである。
上記の例による。

一体利用することにより、それぞれの受ける利益は次のとおりである。

画地
内容
どちらの貢献か?
規模が小さいことが解消される。
Bの画地の貢献が大
2方路が角地になる。
形状が良好となる。
Aの画地の貢献が大

Aの画地の価格形成要因を考えてみよう。

角地であるが規模が小さい画地である。
そのことを反映して価格が150万円となっている。
すなわち、正常価格にはその対象地の要因を全て含めて金額が決定されている。

Bの画地の価格形成要因は、

2方路であるが角地部分の欠けた形状の劣る画地である。
そのことを反映して価格が1380万円となっている。

そして一体利用されることにより、

全体が角地として規模の適正な画地となっている。
そのことにより、単独利用の場合に比較して255万円の増分価値が発生している。

一体利用に伴いそれぞれの価格形成要因が、角地のプラス要因のみに変更されていることになるが、それぞれの単独利用の価格形成要因から一体利用の価格形成要因に変更されることによる利益の合計が増分価値を発生させているのである。

すなわち一体利用に伴い、Aの画地は規模の小さいことが解消されることによる増額が発生し、Bの画地は2方路が角地になる増額と形状が整形になる増額が発生することになる。

それぞれの増額を一体利用に伴う各画地の利益とすると、その利益は、

・Aが60万円=(105,000円-75,000円)×20㎡
・Bが195万円=(105,000円-92,000円)×150㎡

さらに、その利益に対する貢献は何によって発生したのだろうか。

・Aの60万円の利益:主としてBの画地の貢献により発生している。
・Bの195万円の利益:主としてAの画地の貢献により発生している。

(注)主としてと記載しているのは、必ずしも全てが片一方の貢献によらないことによるが、その大半は一体となる相手の土地がもたらすものである。

従って、それぞれの一体利用に伴う一体後の利益を交換することにより、Bの画地がAの画地を隣地買収する場合の限定価格を求めることができる。

区分
金額
Aの正常価格
1,500,000円
Aの寄与による増分価値
1,950,000円
限定価格
3,450,000円
正常価格に対する割合
+130%
標準価格に対する割合
+73%

この方法を「利益交換法」という名称を付けるが、この内容はそれぞれの画地の価格形成要因がどのように変化したのかを分析することと同じであり、「要因分析法」といってもいいものである。

上記の例では、AをBが併合することにより発生する利益が大きいにもかかわらず、Aの併合前の画地の総額(面積)が低いことから、増分価値の配分額が少なくなることに問題があり、その解決法として双方の利益を交換する方法の方がよりいいのではないかと云うことである。
すなわち、Bの所有者がAの土地を買収する場合、自己の所有する土地の価値(総額)が高いからと云って、Aの受け取るべき利益は少ないと云うことが一般的なのだろうか。
通常「倍または3倍出しても隣地は買い」と云われていることと総額比及び限度額比はあまりに違いすぎないだろうか。
私は一体利用することにより発生する利益について、どちらがその利益について貢献しているかを要因毎に決定する。(結果として正常価格にその要因が反映していることから、一体後の双方の利益を交換する。)手法の方がより市場の限定価格の事例に合致していると考えている。
そうすると、限定価格の考え方が非常にシンプルになるのではないだろうか。

さて、ここで問題がある。
限定価格の増分価値は、A・B両方に同等に配分されなければならないものなのだろうか。
BがAを併合する場合と、AがBを併合する場合の配分額が、両方を加算すると全て100%にならないといけないのだろうか。

すなわち、上記の例でBがAを併合する場合の配分額が195万円であったら、AがBを併合する場合の配分額は必ず60万円にならなければいけないのだろうか。

・配分額の合計は必ず100%にならないといけないものなのだろうか?

過去の手法の10種類は、いずれもAがBを併合する場合とBがAを併合する場合の配分額を合計すると100%になるような配分方法である。
上記の利益交換法でもこのまま適用すると、そのような配分方法となるが、ここで考えてみたい。

一般的な不動産鑑定評価の依頼は、どちらかが隣地を購入する場合の依頼である。当然のことながら両方から隣地を購入する場合の依頼は存在しない。
すなわち、片一方が併合したいという動機における鑑定評価の依頼である。
通常の不動産市場においても、片一方が隣地を併合する場合に成立する価格が隣地買収の価格である。

不動産鑑定評価の配分方法のみが、両方を同時に買収し、それによって発生する利益を公平に配分しようとしての配分方法を採用しているように思える。
これは、道路等の公共買収において、借地権付の土地を買収して借地権者と底地所有者に総額を配分する内容と類似しているように思える。
しかし、借地権と底地においても、公共買収でない限り借地権者が底地を買収するか、底地所有者が借地権を買収するかのどちらかである。

増分価値の100%以上を配分することはあり得ないが、片一方の動機によって成立する取引において、もう片一方が逆に買収されることを想定して、両者を足して100%にならなければならないような配分方法を採用するだろうか。

私は、BがAを併合するという限定価格の配分においては、最低の配分率が存在すると考えている。
それが折半法である。
つまり、増分価値を半々で分けるというものである。
折半法というといかにも大づかみで理論性の無いように云われるが、果たしてそうだろうか。
併合により発生する利益の半分以上を相手に与えて買収することは通常の取引行為である。

私は、利益交換法はその配分額が折半法を越える場合にのみ適用可能だと考えている。
限定価格に関しては、まず第1に考えられることは折半法であり、買収する側の利益が折半法を越える場合については、利益交換法による配分が適切だと考えている。

すなわち、限定価格の増分価値の配分方法は、次のとおりとなる。

・折半法と利益交換法のいずれか高い配分額をもって増分価値の配分方法とする。

前例においては、逆にAがBを併合する場合の配分方法は、利益交換法ではなく折半法を採用することになる。
すなわち、BがAを併合する場合は利益交換法、AがBを併合する場合は折半法と云うことになり、両者を合計したら増分価値の100%を越えることになるが、現実に不動産の売買が行われる場合は両者が同時に併合することはあり得ず、あくまで全体の増分価の一部を片一方にどう配分したかということである。

上記のような配分方法を採用すると、次のように片一方のみ(Aのみ)が利益を受ける場合についても、限定価格が成立することになる。

Bの画地は、個別的要因がなく標準価格と同額とし、一体利用した場合のCの画地もAが増える程度では奥行逓減もなく標準価格と同額とした場合を想定する。

この場合の増分価値は、一体利用することによりAの価格が裏地から標準価格へ変更されることのみで、一体化した場合の利益はAのみに発生することになる。
すなわち、上記の利益交換法では、限定価格が成立しないことになる。
しかし、Aの価値が増大すると云うことは、BがAを一体化することにより、Cの総額がA・B単独利用の場合より増額し、担保価値が増加する等のメリットが発生することになる。
従って、BはAを買収しようと云う動機は存在することになり、Aの単独の価値以上で買収することが一般的であり、限定価格が成立することになる。

このような場合、今までのように総額比または限度額比を採用して増分価値を配分したのでは、配分額が極端に少なくなり、現実の市場実態と一致しない。
総額比または限度額比は、それぞれの土地が隣地との対応関係で持っている潜在価値(人文的特性による併合の可能性の潜在価値)による配分方法である。
その画地が元々隣地に対して所有している潜在的な価値である。
しかし、限定価格はBがAを一体化することにより増分価値が顕在化するものであり、顕在化した価値を潜在価値による配分方法で配分していいのだろうか。

上記の場合は、Bの土地に利益が発生していないことから利益交換法は採用できない、すなわち配分額が当然のことながら50%に満たないことから、折半法を採用すればいいことになる。

さて、最後になるが、限定価格はコンサルタント価格であるという説がある。
すなわち、当事者間の上限価格のみ(増分価値を全額配分する方法)を不動産鑑定士は提示すればよく、配分方法は当事者間の立場(力)によって異なるので、そこまでは不動産鑑定評価では踏み込まないという考え方である。
しかし、私はこの考え方には賛成しない。
正常価格と限定価格とは、取引市場が隣地所有者当事者間に限定されているだけであり、通常鑑定評価の対象となる正常価格に加えて、双方の土地の寄与の程度を判断すればいいだけである。
その判断の中身として、当事者間個人的な属性を考慮せず、あくまでその土地の持つ価値を媒介として、客観的な限定価格を決定すればいいのだと考えている。

以上



不動産鑑定評価基準には、次のとおりその定義が記載されている。
「限定価格とは、市場性を有する不動産について、不動産と取得する他の不動産との併合又は不動産の一部を取得する際の分割等に基づき正常価格と同一の市場概念の下において形成されるであろう市場価値と乖離することにより、市場が相対的に限定される場合における取得部分の当該市場限定に基づく市町価値を適正に表示する価格をいう。」

〈参考文献〉
要説不動産鑑定評価基準(2003)、住宅新報社
不動産鑑定実務論(2000)、住宅新報社

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