不動産鑑定評価の問題点05 市場分析とは何か

平成14年7月に不動産鑑定評価基準(以下、基準という)が改正されているが、その中の大きな改正点の一つに「市場分析の重視」がある。
基準の改正に伴い、研修会等において次のようなことを聞くことが多い。

市場分析を行って(行うことにより)、賃料水準を把握する(が明らかになる)。
市場分析を行って(行うことにより)、空室率を把握する(が明らかになる)。
市場分析を行って(行うことにより)、需給動向を把握する(明らかになる)。

等々、いずれも不動産鑑定士は、市場分析を十分行う必要があるというものであるが、上記のような内容は、市場分析というよりは、市場調査と呼ぶほうが正しいのではないだろうか。市場調査と市場分析があまり区別されずに使用されていることが多いと感じている。
ある事実を把握することは調査であり、分析とは、ある事象を分解してそれを成立させている要素、側面を明らかにすること(広辞苑)である。
さて、分析と調査の区分はさておき、上記のように今回の基準改正で市場分析が重視されているが、不動産鑑定士は今まで上記の意味で市場調査を行わずに鑑定評価を行っていたのだろうか。およそ、不動産市場の調査を行わずに、不動産の鑑定評価額の決定が可能なのだろうか。
私は、今までの基準における

・一般的要因の分析
・地域分析
・個別分析

で不動産鑑定士は、十分とはいえないかも知れないが、不動産市場を調査し、需給動向を把握して鑑定評価額を決定していたと考えている。また、需給動向を把握しなくて総額としての鑑定評価額は決定できない。

では、今回の基準改正で大きな改正点となった「市場分析」とは、一体何なのだろうか。改正された基準には、「市場分析」なる項は設けられていないどころか、「市場分析」という言葉すら存在しない。

基準には、地域分析の適用の項目の中に「対象不動産に係る市場の特性」として、

同一需給圏における市場参加者がどのような属性を有しており、どのような観点から不動産の利用形態を選択し、価格形成要因についての判断を行っているかを的確に把握することが重要である。あわせて同一需給圏における市場の需給動向を的確に把握する必要がある。

更に、個別分析の適用の項目において

対象不動産に係る典型的な需要者がどのような個別的要因に着目して行動し、対象不動産と代替、競争等の関係にある不動産と比べた優劣及び競争力の程度をどのように評価しているかを的確に把握することが重要である。

と記載されている。

基準を読むのみでは、今回の改正点で重要とされた市場分析の全体像がわかりにくいので、平成13年12月に不動産鑑定評価部会から出された「不動産鑑定評価基準の改正骨子案」を見ることにする。
市場分析に関する項目として、

Ⅲ.対象不動産の属する市場や市場参加者の特性等に関する市場分析の重視について
【現状】
近年、不動産市場が収益性を重視した取引中心へと変化していることにより、単に近隣地域との関連のみならず、より広域的な市場動向の影響を受けて、不動産の用途決定や価格形成が行われる傾向が高まっているが、現行基準では市場分析に係る具体的な着眼点については明確に記載されていない。
【改正の方向】
(1)市場分析の位置付けの明確化
「地域分析及び個別分析」の各プロセスにおいて、同一需給圏レベルでの需給動向及び競合不動産との関係等を把握するための市場分析を行うことを新たに位置付ける。
(2)鑑定評価報告書への記載
鑑定評価報告書において、地域分析及び個別分析における市場分析の結果を明記する。

と記載されている。
現状認識の問題点として、
①収益性を重視した取引に市場が変化していること。
②不動産が、必ずしも近隣地域との関連においてのみ把握できる状況ではないこと。
③用途の決定や価格形成が、広域的な市場動向の影響を受ける傾向が高まったこと。
をあげている。
①②は、不動産といえば土地を意味していたバブル期以前の時代から明らかに離れてきたことを意味している。バブル期以前は、極端な場合は更地こそが最有効使用であるという意見があったほど、更地が価格の中心であった。不動産の問題点は土地の問題点と同義だったのである。
従って、不動産の鑑定評価においては、不動産(=土地)は全て地域(近隣地域)に属しているものとして地域分析を行い、個別分析を行って更地価格を求め、加算(減算)要因として建物価格(取り壊し費用)を求めていたのが実態である。
あくまで、更地を中心として価格形成がなされており、不動産鑑定評価の実務も更地を中心として価格論を展開し、基準においても更地中心の記載となっているのである。

バブルが崩壊した後、不動産価格の急激な低落傾向が10年以上にわたって続き、いわゆる「土地神話」が崩壊して、不動産市場が収益性を生む建物を含めた複合不動産を中心とした価格形成がなされるようになってきたことから、今までの更地中心としていた基準からの転換だと考えられる。

さて、では市場分析とは何なのだろうか。
基準改正の目的からすれば、単なる市場調査と異なることは明らかである。また、不動産市場全体を他の資産市場との比較において、本来の意味で分析することとも異なっている。
結論から述べれば、基準で意図している市場分析とは、従来からの鑑定評価の考え方及び手順を大きく変えていることとなる。
まず、対象不動産に係る市場(係るという言葉はわかりにくいので、対象不動産が属する市場といいかえる。)とは近隣地域とはどう違うのか。土地のみを対象としている場合は、通常対象不動産が属する市場とは、近隣地域・類似地域・同一需給圏という概念で把握される。しかし、建物及びその敷地等を対象とする不動産全体では、必ずしも地域概念で把握することが困難になってきている。
従って、今回の基準改正ではまず、同一需給圏の概念を変更している。
要説不動産鑑定評価基準116ページに“同一需給圏は、地理的な概念として捉えることができる一方で、対象不動産と代替、競争関係にある不動産の集合体、すなわち対象不動産が属する市場と位置付けることができる。”(アンダーラインは筆者)と記載されており、同一需給圏こそが対象不動産が属する市場なのである。
そして、対象不動産が属する市場とは、対象不動産と代替、競争関係にある不動産の集合体であり、対象不動産の最有効使用に基づいて代替、競争関係にある不動産が特定されるのである。

本来は、対象不動産の属する市場を特定することが先であり、それが地域概念で把握できる場合(住宅地、商業地、工業地等として地域を構成している場合)において、近隣地域・類似地域・同一需給圏という分類で分析が可能なのである。
例えば区分所有建物、貸家及びその敷地等々は、必ずしも地域概念では代替、競争関係にある不動産の把握が困難である。従って、それらを鑑定評価する場合においては、土地の近隣地域の範囲を超えて同用途の不動産の取引事例、収益性等を分析して鑑定評価額を決定していかなければならない。

今回の基準改正は、社会一般の考え方が収益性を重視した取引に移行してきたことによる改正であるが、未だ地域概念で把握される基準の体系の中に対象不動産が属する市場を当てはめ、同一需給圏という概念を変更することで対応している。
本来は、対象不動産が属する市場の分析において、地域概念で把握できる場合は地域分析や個別分析を行うものであり、地域概念で把握できない場合は、地域にとらわれることなく同一の最有効使用に基づく代替、競争関係にある不動産の分析を行うことが必要なのである。

上記改正骨子案で記載している市場分析とは、次のように結論づけられるのではないだろうか。

「不動産を鑑定評価するにあたり、まず対象不動産の最有効使用を特定し、最有効使用に基づく細分化された市場を分析し、対象不動産の競争力を把握することである。」

この、全体の流れを市場分析という言葉で表しているのだと考えられる。
不動産がある地域に属するということは、基準の基本的考察第2節にも「不動産とその価格の特徴」に記載されており、基準全体の大きな枠組みとなっていることから、地域分析の中に上記の意味で市場分析を取り込んだのだと想定される。
全国的に見た場合、必ずしも地域概念で把握できない不動産の取引が主体ではないことから、地域概念で不動産の価格を把握することが可能な場合も多いが、そうでない場合を含め、対象不動産が属する市場の分析という概念で全て把握できるのではないだろうか。
すなわち対象不動産が属する市場の分析を行うということは、地域概念で把握できる不動産は従来の地域分析・個別分析という手法で分析を行うことと、そうでない不動産は最有効使用に基づく代替、競争関係にある不動産の分析を行うということの両方の意味を含んでいる。

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