不動産鑑定評価の問題点32 不動産鑑定評価基準の改正について(基本的考察は変更しないのか)

平成26年5月1日に不動産鑑定評価基準(以下、基準とする。)が改正された。 これは平成14年7月改正以降、平成19年、平成21年と一部改正を行ったが、今回は一部改正ではあるものの相当大きな改正であると思っている。 しかし、基準総論の第1章の基本的考察はそのままである。

今回の基準改正は下記の点を主目的として改正されたものである。【脚注1】 
1.不動産市場の国際化への対応
 ① 不動産鑑定評価基準へのスコープ・オブ・ワークの概念の導入等
 ② 価格概念に関するIVSとの整合性の向上
2.ストック型社会の進展への対応
 ① 建物に係る価格形成要因の充実
 ② 原価法に係る規定の見直し
 ③ その他(未竣工建物鑑定評価の導入等)
3.証券化対象不動産の多様化への対応
 ① 事業用不動産に係る規定の充実
4.その他
 ① 定期借地権に係る規定の充実
 ② 継続賃料の評価に係る規定の見直し


基準は、昭和39年に宅地制度審議会が建設大臣に答申を行って制定されたのが始まりである。その後、昭和44年、平成2年に改正され、平成14年以降の改正へとつながっている。
基準の冒頭に「総論」第1章があり、「不動産の鑑定評価に関する基本的考察」が書かれている。これは、不動産鑑定評価制度の生みの親ともいわれている故櫛田光男氏の書き下ろしたものである。

基本的考察は、櫛田光男氏が述べているように、「今日のこの社会における不動産の鑑定評価の必然性を明らかにし、その可能性を検証し、その主体の責務を論ずる」ことを目的として書かれたものである。
櫛田氏が書いているように、昭和39年の基準作成時から、「鑑定評価という実務には、この基本的考察はむしろ不要である、第1が判ろうと判るまいと、第2以下に述べてあるところをちゃんとやれば、立派な鑑定評価が出来るではないか、とまで極限する意見に接すると・・・」と述べているように、当初からそのような意見は多くあったのだろう。 【脚注2】

櫛田氏の不動産鑑定評価制度の対する貢献は、誰がみても素晴らしいものであるが、社会が大きく動いている中、基本的考察はそのままでいいのだろうか。
昭和39年から平成2年までは、不動産問題といえば土地問題であった。日本が高度経済成長を遂げるに従って、インフラ整備のための土地価格が高騰することが大きな問題であり、戦後から一貫して上昇した土地価格に対する1つの制度が不動産鑑定評価制度であった。 

土地価格を如何に考えるか、社会の中の一連の価格秩序の中に土地価格をどのように適正に構築するかが社会的に大きな問題であった。昭和35年~36年頃の工業地が先導した急激な土地価格の上昇、昭和47年~48年頃の住宅地が先導した急激な土地価格の上昇、そして、平成2年頃をピークとする商業地が先導した一般的にバブルといわれる急激な土地価格の上昇、ここまでは、不動産問題といえば土地問題と同義であり、それも土地価格が限りなく上昇するということと同義であった。

 しかし、その後20年以上土地価格は下落を続けている。土地はキャピタルゲインを目的とするべきではなく、公共の福祉を優先すべきということで土地基本法が成立し、土地は「所有より利用」という時代に入ったのではなかったか。
現代では、不動産問題として「土地価格の上昇」を考える人は居ない。土地価格の下落が継続していることのほうに問題点を考えることが多いのではないだろうか。
基本的考察は、あくまでも昭和39年に上程されたものである。その中で書かれていることは、ほぼ全て「土地」に関することである。

第1節にはこのように記載されている。


不動産は、通常、土地とその定着物をいう。土地はその持つ有用性の故にすべての国民の生活と活動とに欠くことのできない基盤である。そして、この土地を我々人間が各般の目的のためにどのように利用しているかという土地と人間との関係は、不動産のあり方、すなわち、不動産がどのように構成され、どのように貢献しているかということに具体的に現れる。
  この不動産のあり方は、自然的、社会的、経済的及び行政的な要因の相互作用によって決定されるとともに経済価値の本質を決定づけている。一方、この不動産のあり方は、その不動産の経済価値を具体的に表している価格を選択の主要な指標として決定されている。


この中では、不動産は土地とその定着物と書かれており、土地と不動産という言葉を分けて使っているが、「不動産」という文言は「土地」に置き換えた方が意味が通じる。
すなわち、定着物である建物等については、一切考慮されていないのである。また、そのような時代背景であったと思う。
ところが、平成2年頃のバブル経済崩壊後、土地価格は下落が限りなく継続している。そのことにより、土地に対する考え方が変化し、「所有より利用」が重要となり、土地建物を一体とした「建物及びその敷地」の鑑定評価の重要性が増大している。
従って、平成14年の基準改正では、それまでの土地を対象とした「地域分析・個別分析」という概念に「市場分析」という新たな概念を加えたものになったのではないだろうか。

 「市場分析」とは、簡単に述べると、不動産市場(土地・建物の複合不動産を含む様々な市場)を分類し、その分類に対応した市場の分析を行うということではないのだろうか。平成14年の基準改正で、それまでの土地のみを主体とした基準に、土地と建物を含めた複合不動産を重視する基準に変更されたのである。そうすると、本来は平成14年基準でこの基本的考察を変更しなければならなかったのではないだろうか。

 当初作成した昭和39年の基準でさえ、櫛田氏が言っているように、第1章は「木に竹を接いだ」という意見が多くあったということである。

土地価格の概念論【脚注4】のみを述べている基本的考察は、平成14年改正以降、更にその様相は強くなっている。
今回の基準改正でも、基本的考察はそのまま据え置かれた。
私は、この基本的考察は、技術論の性格を強くしている基準の中において、全くの時代遅れであり、今後大きく書き換える必要があるのではないかと思っている。 

基本的考察を現代に合致させることにより、不動産の種類も今のような土地の種別と類型に縛られることなく、土地建物を一体とする複合不動産を中心に考えた不動産の種類に分類して基準を再整理した方がわかりやすいと考えている。 

不動産鑑定業界には、櫛田光男氏の信奉者が非常に多く、この基本的考察はバイブルのように思っている人が多いが、私は、櫛田光男氏の業績は業績として、基準を再整理するためには、大きく変更する必要があると考えている。


(注1)平成26年3月26日第32回分科会配付資料2-1参照(https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/totikensangyo02_sg_000058.html)
(注2)櫛田氏は、そのような意見に答える形で「不動産鑑定評価に関する基本的考察」(住宅新報社、昭和46年4月)を発行している。
(注3)平成17年~20年にかけて若干上昇した時期もあり、近年は上昇を示す地域も多く存在するが、長期的なスパンでみた場合バブル経済崩壊から現在まで大きく下落している。
(注4)ここで「概念」とは、哲学的な厳密な意味で「概念」という言葉を使ったのではない。あくまでも「概括的な意味内容」ということで使っている。

 

 

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