不動産鑑定評価の問題点31 借地権残余法と賃料差額還元法の関係

1.借地権残余法と賃料差額還元法の図示

両者の関係を、賃料を区分して図示する。

借地権残余法と賃料差額還元法の図示

2.賃料差額還元法

賃料差額還元法とは、借地権を鑑定評価する手法としてよく用いられる手法であり、借地権の借り得理論に基づいて構成されているものである。(問題点20:借地権価格と借り得理論
その内容は、土地の正常実質賃料(以下、正常実質地代と称する。)から実際支払い賃料(以下、実際支払い地代と称する。)を控除した賃料差額を還元して求めるものであり、図の右側の“賃料差額還元法を適用”と記載している賃料の部分を還元利回りで還元して借地権価格を求めるものである。

3.借地権残余法

借地権を鑑定評価する手法として、借地権残余法という手法がある。
借地権残余法とは、不動産鑑定評価基準によると、借地権の取引慣行の成熟の程度の高い地域において、取引事例比較法と共に標準となる手法であり、要説では「土地残余法は借地権付建物について適用されるものである。土地にかかる公租公課については、これに代えて地代相当額を計上する。」と書かれている。
ここでいう土地残余法は、借地権建物で借地権価格を求める場合には、一般的に「借地権残余法」と呼ばれるので、ここでは、借地権価格を求める場合は「借地権残余法」、土地価格を求める場合は「土地残余法」と区分するものとする。
賃料差額還元法は、土地のみで借地権価格を求めようとするものであるが、借地権残余法は、地上に建物が存在する場合に、その建物の賃料(以下、家賃とする。)から借地権価格を求めようとするものである。

4.家賃と地代の細区分

まず、借地権付建物で、当該建物を賃貸借する場合の家賃の内訳を区分する。
通常は、家賃・地代共に賃料と記載されるが、ここでは、誤解を生まないように地代と家賃に区分して表示する。

【図示の前提】
・借地権付き建物である。
・土地の実際実質地代が、正常実質地代より低く、差額が発生している場合である。
・土地に対して権利金を支払っている場合である。

 

この場合、図の左側に記載したとおり、家賃及び地代は、a~fに区分される。

a~f:当該建物を前提とした正常実質家賃
a:建物に帰属する純収益(純家賃)
b:必要諸経費の内、土地の必要諸経費(公租公課)以外のもの
c:土地の必要諸経費
d:土地の実際支払い純地代(土地の実際支払い賃料の内、cの必要諸経費を除いた部分)
e:借地について、権利金を支払っている場合の権利金の運用益及び償却額
f:土地の正常実質地代と、土地の実際実質地代の開差の部分

5.賃料差額還元法と借地権残余法の関係

図に記載するとおり、賃料差額還元法は、土地のみで借地権価格を求める場合で、それは、あくまで土地の正常実質地代から、実際支払い地代を控除した部分に適用されるものである。
借地権残余法は、借地権付き建物の家賃から、建物に帰属する部分(純家賃と必要諸経費)と実際支払い地代を控除した残余の部分に適用するものであり、その内容は、図に示すとおり、eとfを対象としており、賃料差額還元法で求める部分と同じである。
理論的には、賃料差額還元法と借地権残余法は、土地の正常実質地代を求める手段が異なるだけであり、両手法から求めた借地権価格は、正常実質地代が同じであれば、同額となるものである。
ここで、借地権付建物の家賃について、実際に当該建物で支払っている実際実質家賃で求めるべきではないかという質問が非常に多い。
しかし、ここで図を良く見て欲しい。
あくまでも完全所有権を想定した借地権付建物の正常実質家賃からでないと、土地に帰属する正常実質地代が求められないのである。
もし、建物の家賃が、周辺家賃に比較して安くなっている場合は、家賃の安くなっている分が、借地権価格に反映されてしまう。本来建物が負担すべき減価が、借地権価格に転化されてしまうのである。
従って、現実に建物が賃貸借されている場合においても、借地権付き建物について、正常実質家賃を想定して、土地に対する正常実質地代が求まるように設定して始めて、賃料差額還元法と同じ借地権価格が求まるのである。
借地権残余法は、現状の借地権付建物が、概ね最有効使用にある場合に適用される手法であり、極端に古くなった建物では、正常実質家賃の把握が困難であることから、適用することが難しい手法であるといえる。
また、現実に建物が存在する場合においても、理論上は地上建物を無視し、新築建物を想定しても正常実質地代が求まることから、新築建物で新規家賃を想定することも認められるが、実際に地上に建物が建築されている場合の鑑定評価において、当該建物を無視して新たな建物を想定することは、その想定も困難であり説明が難しいのではないだろうか。
従って、借地権の制約を受けた中で、概ね最有効使用の建物が建築されている場合は、現状の建物で新規家賃を想定する方が、借地権残余法としては適用しやすいといえる。

6.借地権と借地権付建物の鑑定評価の混同について

借地権残余法を適用する場合、正常実質家賃を採用する必要性があるのは上記のとおりであるが、借地権付建物の鑑定評価を行う場合は異なる。借地権付建物が現実に賃貸借されている場合で、借地権付建物を鑑定評価する場合は、借地権と建物一体で収益還元法を適用する際に実際実質家賃を採用するのである。このことが借地権と借地権付建物の鑑定評価を混同する原因である。
借地権付建物の鑑定評価とは、地上に建物が存在することを前提とし、借地権と建物を一体として鑑定評価することであり、借地権の鑑定評価とは、借地権のみを鑑定評価することで、鑑定評価の類型が全く異なるのである。

 

以 上


ⅰ 借地権の契約で、地上建物に制約(非堅固または建物階層等)を課している場合は、その制約を前提とした建物である。
ⅱ 借地権付建物の家賃が完全所有権(土地・建物が同一所有者)を元本にするのか借地権付建物を元本にするのかについては、多くの議論があるが、ここでは借地権価格を求めるための借地権残余法を説明することから、完全所有権を想定した正常実質賃料とする。
ⅲ 借地権を権利金を支払って設定した直後で、fの開差が発生していない場合は、権利金のe部分のみが借地権価格を形成する。
ⅳ 借地権の契約で、地上建物に制約を課している場合は、その制約を前提として最有効使用の建物から求めるものであり、賃料差額還元法もその点は同じである。

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