千思万考17 「意見書か証明書か」

平成22年1月に国土交通省において、「不動産鑑定士が不動産に関する価格等調査を行う場合の業務の目的と範囲等の確定及び成果報告書の記載事項に関するガイドライン」(以下、単にガイドラインという。)が制定されている。
この中で、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価とそれ以外の価格調査等を区分し、その定義において“不動産鑑定評価基準の全ての内容に従って行われる価格等調査”が、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価とされている。

更に、“不動産鑑定評価基準は、不動産鑑定士が不動産の鑑定評価を行うに当たっての統一的規準であり・・・”と書かれており、平成20年4月に定められた「不当な鑑定評価等及び違反行為に係る処分基準」が、ガイドラインの制定を受けて、平成22年4月に改正され、「不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価」という文言に変更されている。

実務に携わる不動産鑑定士は、過去から不動産鑑定評価基準を遵守して鑑定評価を行っていたのであるが、“統一的規準”という文言が記載されたことにより、あたかも、不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価を行えば、統一的基準であることから、不動産鑑定士による差異は無い(すなわち、鑑定評価した結果の価格は同一になる)という誤解を社会全体に与えないだろうか。

近年、不動産鑑定評価書に対して社会の見る目が、「意見書」という性格から、「証明書」的な性格に変わって来ていると感じる。“不動産鑑定評価基準に則った鑑定評価”という文言を記載することにより、更に、「証明書」としての性格が強く受け取られることを危惧する。

基準には、「理念基準」と「運用基準」があり、現在の不動産鑑定評価基準は、手法についての具体的な適用方法が記載されていないことから、「理念基準」としての性格が強い。「運用基準」となるためには、更に多くの具体的な追加記載や、その前提としての多くの研究、全国的な鑑定士の合意形成が必要であろう。
また、仮に「運用基準」として充分推敲され作成されたとしても、全国の様々な不動産に対して適用すれば、結果が同じになるとは思えない。

不動産鑑定評価は、対象不動産に対する考え方、取引事例の収集方法、収益価格における多くの想定条件、積算価格における積み上げ方法等、不動産鑑定士によって異なることが多く、「正常価格」に収斂するとしても、一致するものではない。
従って、あくまでも不動産鑑定士としての専門家の「意見」であり「判断」なのである。
価格に対する責任の多寡は、「鑑定評価書」も「意見書」も変わりが無いとすれば、私は、ガイドラインで殊更「鑑定評価書」と「意見書」を区分する必要性すら無いのではないかと考える。鑑定評価書も意見を表明した書類であり、意見書も同じである。

私は、現在公共事業等で不動産鑑定評価までもが入札になってきつつあることについて、不動産鑑定評価が、橋梁や道路等のように、具体的基準に則って行えば同一の質のものができるという「証明書」的な発想が、入札制度を助長しているのではないかと思っている。

不動産鑑定評価は、あくまでも不動産鑑定士としての専門家の「意見」・「判断」であり、「証明書」ではないということをもっと私達が力説するべきだと思う。

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