千思万考08 不動産鑑定評価と数学

数学とは、自然科学および社会科学で欠くことのできない有用な学問であるが、その反面、実社会では買い物さえできればよく、全く使うことのない学問だともいわれている。
まして数式を見るだけで嫌悪感を催す人もいる。

数学では、実に多くの記号が使われている。
同じという意味で「=」、概ね同じという意味で「≒」、したがってという意味で「∴」はよく使われるが、偏微分を意味する「∂」、任意のという意味で「∀」、なぜならばという意味で「∵」、要素という意味で「∈、∋」、全てを足すという意味で「Σ」、直積集合を示す「Π」等々、更に、「−」、「→」、「〜」等を記号の頭に付けてアクセントとして利用することも多く、知らなければその意味は全くわからない場合も多い。
意味のわからない数式を見ることこそ苦痛であり、単なる記号の羅列に過ぎず、言葉で説明をしてほしいと思う場合も多い。

しかし、数学記号はそれなりに使用する人にとっては非常に便利なものである。私に数学を教えてくれた先生は、「数学とは、明確な言語だ。」というようなことを言っていた。すなわち、物事を論理的に説明するため、言葉の持つ曖昧さを排除し、記号で表した明確な言語であるということだ。
記号を見れば数学を利用する人にとっては、その意味が確実にわかり、あやふやさが一切ないところが、おそらくいいのだろう。

数学は非常に奥が深く、私などがその内容を述べることはできないが、不動産鑑定士として、実務で必要な範囲と言えば、たかだか四則演算(+−×÷)程度である。
通常の鑑定評価業務においては、微かに分かった積もりの微分積分学も使うことはなく、高等学校で学ぶ数学の内容が鑑定評価書に表れることはない。

実物不動産の市場に参加する人々は、通常四則演算以上の数学的発想で不動産市場に参加しているのではない。まして、不動産金融工学で示される多くの数式を理解して不動産市場に参加している人はいない。
従って、不動産鑑定評価で通常使われている手法においては、四則演算以外を使う必要もないし、現実に使っていない。

原価法とは、単なる積み上げであるので足し算の世界であり、取引事例比較法は、どちらがいいか悪いか、その程度はいくらかを見積り、かけ算と割り算を使っているに過ぎない。
収益還元法の直接還元を示す式は、全くもって単純な割り算であり、DCF法に至ってはより精密な手法と言われているが、期間計算(将来の価格を現在の価格に割り引くという単なる割り算)と足し算をしているに過ぎない。

しかし、不動産鑑定評価とは、不動産の経済価値を求めることであり、経済価値を求めるにあたっては、常日頃から不動産市場についての分析を行う必要がある。
不動産鑑定評価基準では、「分析」という言葉が多く出てくるが、私は、私たちの業界で「分析」を果たして行っているかというと、非常に心許なく思っている。
不動産市場の分析においては、当然のこととして四則演算以外の数学を使う必要が出てくる。

価格判定のバックボーンとしては、不動産市場においてどのようなことが発生しているのか、どのような事象が不動産市場に関連しているのか、価格形成にはどのようなことが影響を与えているのか等々の分析を必要とする。
そのためには、言語による分析も重要であるが、応用数学としての統計学、線形代数、微分積分学等も有用であり、時系列に把握する必要性から計量経済学的手法によって多くの定量分析を行う必要もあると思われる。
今後、不動産取引事例に対する新スキームが開始されたことから、多くの研究者が取引事例を基に研究を行うことだろう。

しかし、不動産市場における実態を最も実感として把握でき、分析成果を判断できるのは、日頃鑑定実務を行っている私たち不動産鑑定士である。従って、実務家として、地に足をつけた研究を私たちこそ行わなければならないのではないだろうか。

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