千思万考06 徒弟制度

徒弟制度とは、「江戸時代、商工業者になろうとする徒弟が親方の家に起居して修行し、一定の年期を経て、初めて一人前になった制度」(広辞苑)のことであり、丁稚奉公と同じ意味である。

高度経済成長を経て現在、親方の家に起居して修行することは、ほとんど見られないが、熟練を要する職人の世界、芸術の世界、学問の世界、武道の世界など、親方(師匠・先生)の家に起居しないまでも、徒弟(弟子・門人・生徒)と1対1の指導関係を持つ徒弟制度に近似した制度が生きている。
ここではこのような近似した制度も含めて「徒弟制度」と呼ぶことにする。
徒弟制度による指導の場合、親方と徒弟の関係が非常に濃く、親方の癖が徒弟の癖となるなど、人間的にも非常に濃密な関係を有する場合がある。

不動産鑑定士の世界はどうだろうか。
試験制度が変更され、不動産鑑定士試験合格後、実務修習を大学で行うことも可能となっている。そして、実務修習が終わり終了考査に合格して不動産鑑定士となるのである。実際には大学の集団指導方式で実務修習を受けている修習生は少なく、ほとんどの修習生は、指導鑑定士の所属する事務所で実務修習を行っているものの、修習で義務付けられている23件の「仮定」による鑑定評価書を書くことに忙殺されているのが現実ではないだろうか。

しかし、不動産鑑定評価という仕事を考えてみるに、鑑定評価書を書くことのみではない。
対象不動産を確認し、最終結論に至る理論的な道程を考え、鑑定評価書を書き、説明する必要がある。対象不動産の確認に誤りは許されなく、多種多様な不動産の価格形成要因に精通することが必要とされ、論理的に説明する責任もあるのである。

そのためには、多くの不動産を見、判定し、結果に対して責任を持ち、批判を受けてはじめて社会で不動産鑑定士として認知されるのではないだろうか。
一人の鑑定士に一人の実務修習生が付き、「仮定」ではない実際の不動産の鑑定評価の依頼を受けて対応する指導鑑定士の考え方、最終結論を導く過程を傍で見て、自分のことと感じて初めて書類を書くこと以外の多くの実務を体得するものだと思う。

私は、「2次試験合格→2年間の実務経験→不動産鑑定士補→1年間の実務補修→3次試験合格→不動産鑑定士」という以前の試験制度が良いというのではない。しかし、修習生は、指導鑑定士の実際の仕事内容を体感する期間は絶対に必要であると考えている。

不動産鑑定士の修習において、1対多の集団指導方式は困難なのではないだろうか。
一方、徒弟制度だと一人の指導鑑定士のみの指導であることから、指導鑑定士の負担も大きすぎるし、多種多様の不動産の鑑定評価の指導を充分に行える指導鑑定士がどれだけ居るのだろうか。
不動産自体の考え方が大きく転換している現在において、逆に旧態依然とした指導鑑定士の質自体も向上していかないと、社会の中から不動産鑑定士という資格が本当に必要なのかと問われるようになるのではないかと危惧している。

私は、実務修習においては、「徒弟制度」に近い形で多くの指導鑑定士が多くの修習生に対して、1対1で指導する体制が取れないものかと思う。そのための組織として、各県の士協会等が機能すればすばらしいことである。

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