不動産鑑定評価の問題点22 バブルとファンダメンタルズ

土地の価格が上昇してきている。
地方都市の県庁所在都市等でも上昇している地域が認められるが、特に、東京、大阪、名古屋等の大都市でその傾向は著しく、「バブル」再来といわれることが多い。
1980年代後半の急激な資産価格(株、不動産等)の急上昇期は、バブル経済と呼ばれているが、「バブル」とは、一般的に次のとおり定義されている。

資産価格がファンダメンタルズに基づいた実体的価値から乖離した動きを示す現象 
(翁邦雄1985)

このファンダメンタルズとは、経済の基本的要因のことであり、ファンダメンタルズに基づいた実体的価値のことを、「ファンダメンタルズ価格」という。そして、ファンダメンタルズ価格と実際の資産価格が離れていることをバブルというのである。
戦後からバブル経済時まで、日本の資産価格は一貫して上昇傾向にあったことから、「バブル」を常に上昇する現象として捕らえる傾向があるが、「バブル」とは、ファンダメンタルズから乖離した状況が継続することを指すのであり、“「ファンダメンタルズから乖離して資産価格が上昇または下落していく現象」を指す。”のである。

すなわち、バブル経済崩壊後15年以上にわたって不動産価格が急激に下落した中において、ファンダメンタルズ価格より低くなっている可能性があることも、また「バブル」の定義の中に含まれている。
バブル(Bubble)を直訳すれば、「泡」のことであり、いつ破裂するかわからぬほど頼りなく大きくふくらんでいき、最終的に消えてしまうことから、マスコミ等で比喩的に資産価格の上昇に当てはめて使われていることが多いが、逆に下落の場合も「バブル」に該当するのである。

このサイトを立ち上げた2年前は、地方都市では未だ不動産価格に上昇の気配は全くなく、下落一方の弱気市場であったが、“収益価格は万能かで、“現在投資物件として、利回りが10%を遙かに超える物件が取引されている実態を見ると、分子である賃貸料があまり変化していないことから、分母である不動産の価格が低くなりすぎていると思わざるを得ない。”と記載しているとおり、資産価格が逆に低くなりすぎていたのではないだろうか。

現在、上昇傾向が強くなってきているが、この現象は果たして上記で定義される「バブル」に該当しているのか。ただ単に上昇していることをもって、「バブル」といわれるものではない。あくまでも、ファンダメンタルズ価格と乖離しているかどうかを検証しなければならない。
しかし、ファンダメンタルズ価格を把握することは難しく、経済学者を含めて私たち不動産鑑定の実務家も、ファンダメンタルズ価格そのものを研究している人は少ない。
「ファンダメンタルズ」という文言を記載することで、あたかもファンダメンタルズ価格が、既知の値のように考えているのではないかと思われる場合が多い。

バブル経済を経て、資産価格が大きく下落した現在では、当時をバブルではないという人はほとんどいないが、急激に上昇している時期、その現象がバブルかどうかについては、経済学者の中にも多くの議論があった。
すなわち、バブルではないと力説した人たちも多く、それほどファンダメンタルズ価格を把握することは難しいことなのである。

金本(1992)は、バブルの定義として、「収益還元価値」と現実の地価との差であるとしているように、将来の収益を現在価値に割り戻す収益価格こそが資産価格の本質を示すものであり、収益価格がファンダメンタルズ価格であると思われているふしがある。
私たち不動産鑑定士はその実務でいつも収益価格を試算しているが、この収益価格と、上記の「収益還元価値」とは同じものなのだろうか。
その、定義上では同じであるが、不動産鑑定士が現実に試算している収益価格が本当にファンダメンタルズ価格なのであろうか。

私は、不動産鑑定士が現実に求めている収益価格と、金本の定義する「収益還元価値」を意味する収益価格は、全く異なるものだと思っている。すなわち、収益価格といわれているものは、ファンダメンタルズ価格を求めるための収益価格と、現実の市場価値を求めるための収益価格が存在するということである。
そして、不動産鑑定士が求めている収益価格は、現実の市場価値を求める収益価格である。

DCF法の導入により収益価格が精緻化されたとよくいわれるが、それは手法上精緻化されたに過ぎず、不動産鑑定士の試算している収益価格は、ファンダメンタルズ価格を指向している価格ではない。収益価格で最も重要なのは、DCF法または直接還元法という手法のことではなく割引率の問題(還元利回りの問題)である。
割引率をどのように求めているかによって、収益価格で求めている価格の性格が異なってくる。

不動産鑑定評価の手法は、あくまでも「ある価格」を求めるための手法であり、実務で「ある価格」を求めているのである。(“正常価格について” “合理的期待と適応的期待、不動産市場はいずれか”参照)
「ある価格」を求めることが実務上の要請であり、そのためには割引率について、賃貸用不動産の実際の取引事例を分析して市場において成立している割引率を採用しているのが実態ではないか。
バブル経済崩壊以前においては、不動産は常に上昇する資産であったことから、収益的な分析はほとんどなされなかったが、現在は市場参加者が収益という要因を重視して不動産市場に参入していることから、私たちの業界でも賃料の分析、利回りの分析が活発となっている。しかし、このことは、あくまでも「ある価格」を求めるための割引率の分析に他ならない。
誤解を恐れずにいえば、取引事例を分析して求める「比準価格」と整合性のある割引率を求めていることと同じである。
不動産鑑定士は、市場価格の分析者であり、ファンダメンタルズ価格の分析者ではない。市場参加者の収益性に対する期待が大きく、その期待により不動産価格が形成されていることから、その市場を分析して「ある価格」を示す収益価格を求めているのである。
収益価格を神格化する必要はない。

ファンダメンタルズ価格の正確な把握は困難であるが、バブル崩壊後、金融機関等で10%を越える利回りであっても全く融資しないという状態の時の不動産価格は、明らかにファンダメンタルズ価格を下回っていたのではないだろうか。現在でも地方都市では相当に高い利回りを示している不動産が取引されている。
少なくとも、地方都市では不動産価格が上昇している状態は認められるが、ファンダメンタルズ価格を超えているとはいえないのではないだろうか。

私は、現実の実務で「ある価格」を求めていることは当然のこととしても、不動産鑑定士こそがファンダメンタルズ価格を示す収益価格をもっと研究する必要があると考えている。そして、批判はあると思うが、現実の不動産の価格とファンダメンタルズ価格との開差を提言できるようになることこそが、不動産鑑定士に専門家として課された使命ではないだろうか。

以上


ⅰ 期待と投機の経済分析、東洋経済新報社、(1985)
翁は、この中で過去の世界に発生した多くのバブル現象を詳述している。
ⅱ 単に「ファンダメンタルズ」という言葉で、ファンダメンタルズ価格を示すこともある。
ⅲ 昭和47年の地価上昇の後、若干下落した時期はあるがその程度は少ない。
ⅳ 平成バブルの研究(形成編)「松村岐夫、奥野正寛」東洋経済新聞社(2002)
ⅴ 借地権割合と底地割合「(社)日本不動産鑑定協会法務鑑定委員会編」判例タイムズ(2006)では、14ページにバブルの概念概略図で、ファンダメンタルズを図示している。概念図であることからこのような記載方法をとっているが、現実に解明可能なのだろうか。 また、この図では、下落局面を非合理的バブルと述べているが、「バブル」の定義からは、下落局面を非合理的バブルというのではなく、下落局面においても合理的バブルを否定するものではない。
ⅵ バブルの経済学、「野口悠紀夫」日本経済新聞社(1992)104ページからの“3.地価と株価に関するバブル論争”参照
ⅶ 地価バブルの実証は可能か?「金本良嗣」住宅土地経済、No3,1992で、次のようにバブルを定義している。「バブルは現実の地価とファンダメンタルズ(収益還元価値)の差である」(アンダーラインは筆者)
ⅷ 比準価格とは、取引事例を追認する価格のことではなく、多くの取引事例を不動産鑑定士が分析して適切な価格を求めるものであり、単なる取引事例とは異なることは明記したい。
ⅸ 不動産鑑定評価上の暗黙の了解となっているのか、不動産鑑定評価書において、収益価格が比準価格よりも常に下にあるという必然性も全くないことは明白である。

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