不動産鑑定評価は実践理論です。 このサイトでは、不動産鑑定評価における 様々な問題点を考えたいと思っています。
戦後の高度成長期、バブル期、バブル崩壊期を経て、 不動産の価格は大きく変化しました。 一方、この間の賃料の変化は比較的緩やかでした。 価格と賃料の変化に対応して市場参加者の不動産に 対する考え方も変わりつつあります。 このサイトでは、不動産の価格及び賃料の適切な 経済価値を判定することを使命としている 不動産鑑定評価における様々な問題点を、 忌憚なくかつ背伸びせず述べていきたいと 思っています。
2007.05.05
「不動産の価格は、本質的にはそこから得られる賃料から求められる。」というのが、経済学上の常識である。
このことは、今までにもたびたび触れており、価格と賃料の関係式を記載している。
(下記の問題点参照)
現実に私たちは、不動産を鑑定するための一つの試算価格として、直接還元法またはDCF法で収益価格を求めている。
しかし、賃料が既知である(将来予測を含む)ことから、その手法の根源をなすのは、割引率または還元利回りである。不動産鑑定評価では、その割引率または還元利回りを現実の価格と賃料の割合で求めているのが実態ではないだろうか。すなわち、価格が上昇すれば利回りが低下し、価格が下落すれば利回りが上昇するということになる。
割合で求めているというのがいいすぎであるとしても、現実の賃料利回りを調査してその割合を参考として求めているのが実態である。
実務として価格の鑑定評価をおこなう場合、現実の価格がどのように形成されているのかを分析するのが不動産鑑定評価であり、市場において取引された価格から求める比準価格こそが最も重要な価格(注:取引価格そのものを比準価格というのではないことは自明である。)である。そのことは、比準価格が最も重要な試算価格で記載しているとおりである。
私たちの業界では、未だ利回りの研究は十分にはなされていないといわざるを得ない。@
賃料が資産価格を形成しているのが経済学上の常識だとしても、現実の市場において、賃料が不動産価格を形成しているのだろうか。賃料(新規賃料)は賃貸市場で決定され、価格は価格市場で形成されているのである。私は、価格と賃料がそれほど直接的に、かつ短期的に、また、単純に結びついているとは思わない。
賃料を元に価格が形成されているとすれば、それは、ファンダメンタルな価格形成が行われていることであり、バブルは起こらないことになる。
しかし、現実に不動産の価格はバブル期に急激な上昇を示し、その後長期低落を示した。近年また不動産価格が上昇してきている。特に三大都市圏ではバブル再来ともいわれている。そして、地方都市にもその状況は波及しつつあるのが現状である。
その間、賃料市場は大きな変化を示していない。全く変動していないとはいえないが、少なくとも価格の変化割合に比較した場合、概ね安定的に推移しているといえるのではないだろうか。A
現実の市場では、短期的には、バブル経済時または近年の急激な価格上昇に見られるように、不動産の価格が賃料から求められる価格を乖離することは多い。しかし、長期的に不動産の価格は賃料市場とは無関係に形成されているのだろうか。このことは、本質的な問題である。
価格と賃料に長期的な関連があるのだろうか。
もし、価格が価格市場のみをみて動いているとすると、不動産鑑定士が求めている収益価格の本質的な根拠はなくなる。(現実に求めている収益価格の意味がないということではない。)
このような、価格と賃料の関係を分析するため、「グレンジャーの因果関係」を分析するものとする。因果関係とは一般的には原因と結果を示し、直接的な原因により様々な結果が生じることをいうが、ここでいう「因果関係」は、「グレンジャーの」と但し書きがついているとおり、本来の意味での因果関係とは異なり、原因と結果に時間的なずれがあることを統計的に分析することである。
グレンジャーの因果関係を分析する手法として、ベクトル自己回帰(VAR)モデルがある。
これは、相互に影響のある2変数の場合、p次の自己回帰モデル
として次のとおり表すものである。
上記VARモデルについて、過去のy変数の系列がx変数の変動を説明するために役立つかどうかを検定するものであり、yのラグが統計的に有意であれば、yはxに対して「グレンジャーの意味で因果関係がある。」という。すなわち、どちらの変数が先に動いたかをもって因果関係と見ているものであり、帰無仮説は次のとおりである。
この場合yからxへの因果関係はないということになる。
VARモデルを分析するにあたり採用する賃料データは、三鬼商事(株)の保有する1985年から2004年のオフィス賃料のデータであり、ヘドニックモデルを適用して求めた賃料インデックスである。B(就業者人口の変化とオフィスの新規賃料参照)
また、価格データとしては、オフィスビルの価格データが存在しない。大阪市の中心商業地においては、オフィスビルビルの総額に占める土地の価格のウェイトが高いことを考慮し、国土利用計画法に基づく基準地価格の大阪市商業地を採用し、1985年を基準として平均変動率を用いて指数化し、価格の代理変数とした。
価格と賃料の関係を図に示すと、下記のとおりである。
ここで、価格・賃料共にラグを2次までとし、因果性分析をおこなった結果は、下記のとおりである。
VAR分析をおこなう場合データの定常性が必要であり、価格・賃料についてDickey-Fuller検定(ラグを含めたADF検定で、定数項あり・トレンドあり)をおこなった結果、いずれも定常状態にあるものと判定した。また、単位根検定の不確実性を補うために、VARの全ての根が単位円内に存在するか否かの検定をおこなったが、いずれもその状態を満足し定常状態にあることを確認した。
グレンジャーの因果性検定結果
帰無仮説 F値 P値 価格が賃料に因果性なし 6.428 0.011 賃料が価格に因果性なし 5.249 0.021
以上により、「賃料と価格は、相互に因果性を持っていない」。という帰無仮説が棄却される結果となった。したがって、不動産価格は過去の賃料に影響を受けていることを示している。一方、オフィス賃料も過去の価格の影響を受けて決まっていることを示している。
このことは、価格が賃料の影響を受けていることを実証したこととなり、また価格が変化することがオフィスの原価に影響を与えて賃料が変化することを示している。
長期的には、賃料が価格形成に大きな影響を与えていることは実証できたが、現在時点の価格と賃料の関係は今後の検討課題であり、また、割引率及び還元利回り等の利回りを分析することが、本来的なファンダメンタルズ価格を分析することとなり、不動産鑑定士として最も必要なことだと考えている。